香田亜以さん/ヴァイオリン/アンギャン夏期国際マスタークラス/ベルギー・アンギャン
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
香田亜以さんプロフィール
1989年札幌生まれ。北海道大学工学部2年在学中。現在、北海道大学交響楽団、その他アンサンブルに所属。
2009年ベルギー・アンギャン夏期国際マスタークラス受講
-まずは、香田さんの簡単なご経歴を教えてください。
香田 4歳からバイオリンを始め、プライベートレッスンで先生について習っています。音楽大学ではなく一般の大学に通っています。
-今回アンギャンに行かれたわけですが、それまでに海外に行かれたこと、レッスンを受けられたことはありましたか?
香田 いえ、ありません。初めてです。
-海外の講習会に参加して、音楽を勉強しようと思ったきっかけは?
香田 作曲家が生きた国や場所で、実際に曲を作った場所を見てみたいという思いや、その空気を感じながら弾いてみたいという思いがあったからです。
-ベルギーを選ばれた理由は?
香田 ブロン先生のレッスンを以前テレビで見たことがあって、一度生でレッスンを見てみたいな、と思っていたんです。
-では、以前からブロン先生にご興味があったのですね。
香田 はい。ブロン先生は、日本にもけっこういらっしゃっている方なので。
-今回、アンギャンの講習会はどれくらいの人数が参加されていましたか?
香田 最初の1週間は聴講生だったのですが、大体25人ほどでした。2週目は6人です。
-どの国の人が多かったですか?
香田 フランス人、ドイツ人はやはり多かったです。でも、ブラジルから来ていた方もいましたし、日本人もいました。国際色豊かでしたよ。
-レッスンは英語でしたか?
香田 はい、英語でした。
-1週間目はザハール・ブロン先生の聴講ということですが、毎日聴講には行かれましたか?
香田 毎日ではありません。一週目は人数が多かったので、一人あたりでは40分のレッスンでしたが、朝から晩まで行われていました。出入り自由なので、気軽に聴講しに行っていました。
-実際にレッスンを聴講した感想は?
香田 実際に外国人のレッスンを初めて見ましたが、ブロン先生は基本ドイツ語だったので先生の話していることが分からなくて…。でも、ブロン先生はお手本として弾いてみせていたので、それで理解できるという感じでした。フレーズとか入り方とか。受講生が上手な方ばっかりだったので、聴いているだけで表現の仕方など本当に勉強になりました。
-レッスンの雰囲気は、どんな感じですか?
香田 先生と自由に話せるような雰囲気でした。聴講している生徒や親もたまに先生と話したりもしていましたよ。
-2週目からのウルフ・ヴァーリン先生のレッスンはいかがでしたか?
香田 それが、先生が直前に病気になられて、講習会にいらっしゃらなかったんですよ。
-そうだったんですか!?
香田 急遽、ミッチェル先生という女性の方に代わったんです。最初、どういう方かも分からなかったので、不安でした。帰ってから調べてみたら、ソロ活動をされている先生のようで。ソロの方なので弾き方がやっぱりパワフルでした。見せるパフォーマンスを大事にされているというか。
-そんな方のレッスンを受けられて、逆に良かったかもしれないですね。
香田 はい。最初はびっくりしましたが、刺激的でした。
-ミッチェル先生のレッスンは、どのくらいのペースで行われましたか?
香田 一回1時間のレッスンを一週間に3回ですね。先生方のコンサートがあったので、その練習のために、レッスンの時間が変わって日数的には4日間やりましたが。
-レッスンの内容はどういった感じでしたか?
香田 フレーズの取り方や表現の仕方がメインだったと思います。聴講の時も感じましたが、もっともっと自分を出していかないといけないんだなって。自分がどんなに感情的に弾いたとしてもミッチェル先生はOKを出してくれませんでした。
-何曲くらい見ていただけたのですか?
香田 私は2曲持っていきました。皆さんは、3~4曲持って来ていたので、2曲は少なかったかなとも思ったんですけど、自分の気になった所を突き詰めて習えたので良かったです。
-2日で1曲見てもらった感じですか?
香田 いえ。無伴奏とコンチェルトを一曲ずつ持っていったのですが、弓を上手く使ったフレーズの取り方をもっと教えてもらいたくてコンチェルトを中心にレッスンを受けました。
-その中で、基礎的なことを教わったのですね。
香田 やはり体の動かし方とか、表現の仕方ですね。先生がお手本を見せてくださって。小柄な先生だったんですが、動きの大きな方でした。
-どんな人柄の先生でしたか?
香田 とても優しくて、いつもにこやかな方でしたね。演奏とのギャップがありました。
-レッスン以外の時間は何をしていたんですか?
香田 もちろん練習はしましたが、友達とご飯を食べに行ったり。何度かパーティーもありました。少し時間があったので、一人でブリュッセルの観光もしました。
-充実されていたようですね。練習は、どこでされましたか?
香田 近くの学校が夏休み期間でしたので、そこの教室を使って練習しました。
-ひとり何時間とか決められているのでしょうか?
香田 いえ、決まっていませんでした、朝10時から夜7時まで学校が空いているので、自由に使えました。十分練習できましたよ。
-海外の方とのコミュニケーションはいかがでしたか?
香田 雰囲気はすごく楽しかったですけど、やっぱり、もうちょっと英語が話せたら良かったな…と思いました。
-事前に英語は勉強されていたんですか?
香田 いえ、全然。(笑)行ってみて、頑張ろうという気になりました。
-文化の違いで驚いたことはありましたか?
香田 そうですね。よく言われることですが、本当に自分の意志をはっきり言いますね。ちゃんと自分の意見を持ってて、自信を持って言えるというか。外国に行って、私はもっと自分を出せる気がしました。周りがみんなそういう空気ですから自然と自分に自信も持てますね。海外では、やはり積極的にならないといけないですよね。
-日本人の感覚よりオーバーな感じでやったほうがいい感じなんでしょうかね
香田 はい。それでも、全然オーバーではないんですよね。むしろそれくらいしないと伝わらない。
-なるほど。街の様子はどんな感じですか?
香田 小さな町で、特に観光するところもないような田舎でした。でも、お城の中が本当にキレイでした。公園の中にお城があるのですが、歩いて回ると2~3時間くらいかかりましたよ。ゴルフ場もあってゆったりとした雰囲気で本当に落ち着く場所でした。
-ブリュッセル市内はどんな感じでしたか?
香田 多くの人でとても賑やかでしたよ。本当に親切な方ばかりで道に迷っても全く困りませんでした。
-治安はどうでしたか?
香田 問題ありませんでした。怖い思いもしませんでしたし、英語も通じましたから。
-初めての海外という方にも、比較的安心な場所のようですね。今回、宿泊先は、どういったところでしたか?
香田 ホームステイでした。おじいちゃんとおばあちゃんの、すごく素敵な家庭でした。息子さんもブリュッセルに住んでいるので、週末に来たりしていました。その方が、日本の大学に行っていたようで、日本語がペラペラでした。色々お話してくれましたよ。
-海外のお宅に入るのは、不安があったと思うんですが。
香田 そうですね。でも、毎年日本人を受け入れているホームステイ先でしたので、日本人がそこに滞在したんです。なので、安心でした。凄く大きなお家なので、たくさん受け入れられるみたいです。本当にお城のようなお家でした。
-ひとりに一家庭ではないんですね。
香田 他の受講生はほとんどそうだったみたいですが、わたしが滞在したお家だけは、たくさん受け入れていました。他の参加者からは一番良いステイ先だと言われましたよ。
-それはラッキーでしたね! 滞在中の食事はどうされましたか?
香田 朝はステイ先で用意してくれるので、それを食べました。パン、ジャム、コーンフレーク、フルーツなどが並んでいて、自分の好きなものをそれぞれ取って食べるという感じです。夕食も用意してくれたのですが、講習会が終わるのが18時頃で、ステイ先までのシャトルバスの時間が21時でしたから、その空いた3時間で他の受講生たちと一緒に食べることが多かったです。
-レストランはあるのですか?
香田 はい、会場の近くにはありました。日本食レストランもあったのですが高そうだったので、中華料理屋さんによく行きましたね。結構美味しかったですよ。ステイ先ではほとんど毎日パンが出ました。あと、ソーセージも多かったですね。
-講習会場までは、どうやって移動していたんですか?
香田 シャトルバスが迎えに来てくれました。前の日に名前を書いて予約すると、家の前まで迎えに来てくれるんです。帰りも同じ要領でした。
-歩いては行けない距離だったんですか。
香田 ちょっと無理ですね。どこも行けないんです、田舎過ぎて(笑)。ホームステイ先があるところなどは、本当に何もなかったんです。学校の近くにはスーパーがあるので、学校のあとに寄って、その後バスで帰るという感じでした。
-今回、講習会に参加して一番良かったことは何ですか?
香田 バイオリンの技術についていえば、今後の課題が浮き彫りになって、これから練習していく上で大きな収穫となりました。日本人の演奏だけでなく、色々な方の演奏を聞いたことによって、表現の仕方の幅が広がったように思います。また、室内楽のレッスンもありました。私は今回ピアノ、チェロの方とトリオを演奏することができました。残念ながら私の聞いたことのない曲になったのですが、ピアノ、チェロの方と一緒に弾いているだけで、自分にどのような演奏、表現が求められているのかが感じ取れたのです。まるで魔法のようでした。今までで一番楽しく、衝撃的な室内楽のレッスンでした。ソロのレッスンより室内楽の方が楽しかったかもしれません(笑)
-今後の音楽活動に生かせそうですね。今後、海外留学をしてみたいという方にアドバイスをお願いします。
香田 やはり、ペラペラではなくてもいいので、英語は話せたほうがいいということですね。一生懸命話していれば、分かってくれる部分はあるのですが、話せるに越したことはありません。
-音楽家になりたいという目標はありますか?
香田 そうですね。今までは音楽は趣味だと思っていたんですが、今回参加してみて音楽の素晴らしさを改めて実感しましたし、もっと深く追求して将来的にそういう道に進めたらいいなとは思い始めています。
-今回の留学で可能性も更に増えたことと思いますので、今後も頑張ってください。今日はお忙しいなか本当にありがとうございました。
音楽留学アンドビジョン【ドイツ語圏留学&海外音大日本入試 vol.322. 2014-10-07 05:00:00】
須山由梨さん/ピアノ/ウィーン国際音楽ゼミナール/オーストリア・ウィーン
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
須山由梨さんプロフィール
3歳よりヤマハ音楽教室に入会。幼児科~ジュニア専門コースで学ぶ。中学2年生で「第2回かやぶき音楽堂ピアノデュオ連弾コンクールD部門」第2位、中学3年生で「第6回若き獅子たちのジュニア音楽コンクール」県知事賞を受賞。兵庫県立西宮高校音楽科ピアノ専攻を経て神戸女学院大学音楽学部器楽(ピアノ)専攻入学。同時に半年毎に阪神間にて自主企画コンサートを実施(1~3回目はフェリーチェ音楽院、4回目以降は世良美術館)。3年生で「第54回朝日推薦演奏会」に出演、「第15回KOBE国際学生音楽コンクールピアノ部門」奨励賞を受賞。現在4年に在籍し「第16回オータムコンサート」に出演、ハンナ・ギューリック・スエヒロ賞を授与される。ボリス・ベクテレフ氏に師事。2009年夏、ウィーン国際音楽ゼミナール ジュゼッペ・マリオッティ先生のコースを受講。
-まずは、須山さんのご経歴からお願いいたします。
須山 兵庫県立西宮高等学校音楽科を卒業し、現在、神戸女学院大学音楽学部の4年生です。
-講習会に参加されたのは、今回が初めてなんですよね?
須山 はい、初めてです。海外旅行としては、小さい頃に行ったことはあるようなのですが、記憶にないんです。写真を見て、ああこんなところに行ったんだな、という感じで。
-今回、参加されたきっかけは、学校でそういう制度があったからということですが。
須山 そうですね。今年から制度が始まって、こういう講習会に参加しませんか、という掲示を見て存在を知りました。そこに書いてあった講師陣の中に、以前から気になっていた先生のお名前を見つけたのも、大きな理由です。その先生にも教えていただきたいし、海外で講習を受けられるなら、と思い応募しました。
-その制度には、学内で選考試験などはあったのですか?
須山 はい、一応選考は成績だったようです。3年生の後期の成績が評価されたようです。
-素晴らしいですね。さて、講習会ですが、参加者はどのくらいの人数がいましたか?
須山 50人くらいだったと思います。実際、全員集まるという機会がなかったのでよくわからないのですが・・・。担当の先生によって、行事への関わり方が違いまして。たとえば、オープニングイベントなどに、「いってらっしゃい」って送り出してくれる先生もいれば、「僕たちは僕たちでやりましょう」みたいな先生もいらしたので。
-参加者は、どんな国籍の方が多かったですか?
須山 私たちのときは、日本人が本当に多かったです。ちらほら他の国の方はいらしたんですけど。
-ウィーンは、日本人には人気の場所ですし、日本の大学生のお休みの時期でしたもんね。
須山 そうですね。夏休みが始まる頃だったので、皆さんも行きやすかったんでしょうね。私は、二期に参加しましたけど、フルートの友達が五期で行ったときには、外国の方が多かったって言っていましたので、時期によっても違うみたいです。
-講習会のスケジュールは、先生ごとに個々で決まっていたんですか?
須山 はい。私の場合は、土日を除いて毎日レッスンしていただきました。本当に先生によって、大分スケジュールも違っていたみたいです。
-たくさんレッスンを受けられて良かったですね。
須山 本当にありがたかったです。時間としても、1時間から1時間半くらいで、それが毎日でしたから。
-先生はどんな方でしたか?
須山 本当に穏やかで親切な、まさに紳士という方でしたね。細かいところにまで気を使ってくださって、すごく丁寧に教えていただきました。
-レッスンではどんなことを教わりましたか?
須山 ペダルの使い方をよく教えていただいたのが印象に残っています。先生曰く、ウィーンスタイルという奏法があるそうで。そういうことをいろいろ教えていただきました。
-レッスンはドイツ語ですか?
須山 基本は英語でした。ただ、いろんな言語がしゃべれる先生なので。日本でも徳島文理大学の音楽学部長をされている方で、時々日本語も混じりましたし(笑)。
-練習はどこでされていたんですか?
須山 学校とホテルの練習室ですね。どちらも、2時間を上限として、予約して使う形です。私は、学校の練習室もホテルの練習室もどちらも使いました。
-それぞれの練習室で違いはありましたか?
須山 学校の練習室は、アップライトのピアノだったんです。ホテルは3部屋中2部屋がグランドピアノでした。私は、そのうち1つの部屋が気に入ったので、主にその部屋で弾いていました。
-レッスン以外の時間は何をしていましたか?
須山 コンサートに行ったり、観光したりしていました。美術館へ行ったり、ショッピングなどもしましたね。
-美術館はどうでしたか?
須山 やっぱり素晴らしかったです。美術博物館に行ったんですけど、本当にいたるところに作品が並んでいて、歴史を感じられる作品がたくさんあって、感動しましたね。有名な絵などもありましたから。
-ウィーンは、そういう芸術面は充実してますからね。
須山 ただ、ちょうどオペラをやっていない時期だったので、それが残念でしたけど。
-それは残念でしたね。コンサートは何のコンサートに行かれたんですか?
須山 ひとつは、観光客向けの弦楽四重奏だったんですが、歌やバレエもついていました。こじんまりとした所だったんですけど、素晴らしかったですよ。あとは、ウィーン国立音楽大学の先生が指揮されている、管弦楽団のコンサートに、私のピアノの先生に招待していただいて行きました。とてもいい思い出になりました。
-宿泊先はホテルだったと思うんですが、対応はいかがでしたか?
須山 すごく皆さん親切でした。しいて言えば、シーツなどを整えてくださるハウスキーピングの方が、日によって、すごい早いときがあって、思いっきり寝ているときに来てしまったこともありましたね(笑)。「Don't Disturb 」の札とかなかったので・・・。困ったことはそのくらいで、とても過ごしやすかったですよ。
-宿泊先と講習会場は、どうやって移動していたんですか?
須山 トラムで移動しました。不安だったんですけど、最初、詳しい方が連れて行ってくださったんです。おかげで、すぐ自分で乗れるようになったので、毎日使ってました。
-助けてくださる方もいたんですね。
須山 はい、とてもありがたかったです。宿泊先にも日本人の方が多かったですし。学校の先輩と、向こうでばったりお会いしたりもして、それも心強かったですね。
-食事は外食が多かったんですか?
須山 そうですね、友達と一緒に行きました。けっこうイタリアンレストランが多くて、入りやすかったのでよく行っていました。あとはカフェとかですね。値段としては、平均、10から15ユーロくらいだったと思います。
-日本と比べると、やや高いですよね。
須山 そうですね、量も多いんですけど。ただ、私の場合は、すごくお腹がすいていたので、たっぷり食べてましたから(笑)。レッスンだけでもお腹が空きますからね。
-皆さんも、疲れてたくさん食べるって聞きますよ。カフェではお菓子も食べられたんですか?
須山 はい。お昼とおやつを食べたり、夕飯とデザートを食べたり。それこそ、ザッハトルテとか、ケーキとか、思う存分食べてきました(笑)。あとは、ウィーンの郷土料理の、ヴィーナシュニッツェルも食べました。
-それはどういう料理なんですか?
須山 牛や豚のカツレツです。シュニッツェルセンターというのがホテルの近くにあって、そこにも通いました。ヴィーナシュニッツェルのファーストフードみたいなものなんですけど。
-どんなソースなんですか?
須山 ソースはかかってないですね。塩コショウで、すごくシンプルなんです。
-今後行かれる方にはぜひ食べてもらいたいですね。さて、日本人の方が多かったということですが、海外の人と交流することは少なかったんですか?
須山 お店の方とはお話しする程度でしたね。
-そのときに上手くコミュニケーションするコツはありますか?
須山 笑顔と挨拶ですね。ガイドブックにも書いてあったのですが、お店に入るときも、挨拶をするように心がけました。そうすると皆さんも笑顔で返してくれるので。
-特に困ったことやトラブルはありましたか?
須山 大きなトラブルは特になかったんです。ひとつ挙げれば、前日に大学の下見に行ったんですね。そのときは地下鉄を使ったんですけど、地下鉄からホテルに帰れなくなって・・・(笑)。友達も一緒だったんですが、どうしても分からなくなってしまって、近くの方に聞いて教えてもらったりして、なんとか無事にたどり着いたということがありました。
-現地の人も親切だったんですね。
須山 本当に親切でしたよ。片言の英語で話しかけたんですけど、すぐに英語で答えてくれましたし。
-英語は皆さん話せるんですね。
須山 はい。お店の方も英語で対応してくださいました。
-ドイツ語が話せるほうがベストだけれど、英語でも困らないんですね。
須山 はい、お店での会話ならそれでも。観光客の方も多いので、お店の方々は、日ごろから英語を話してらっしゃるんでしょうね。
-今回講習会に参加して良かったことは何ですか?
須山 もちろん、ウィーンの文化に触れることが出来たのも嬉しかったんですけど、講習会の中で、 ベーゼンドルファーザールで演奏する機会があるっていうのが、しおりに書いてあったので、そういう機会があったらいいなって思っていたんです。そうしたら運良く、そこで弾けることになりまして。私はベーゼンドルファーが好きなので、夢のような場所で演奏できて、とても感激しました。
-素晴らしいですね!今後の自信にもなりますね。では、日本とウィーンとで大きく違う点は何ですか?
須山 日が暮れるのが遅かったですね。9時くらいにやっと暗くなる感じで。日本でいるときの感覚からしたら、「あれ?もうこんな時間?」っていうのことがありました。
-電車などの交通が遅れたりとかはしなかったんですか?
須山 トラムは、バスみたいな感じで、少し遅れることはありましたけど、大幅な遅れはなかったですね。あとは、また食べ物の話ですが(笑)、料理を注文してから来るまでの時間が長かったです。日本だとクレームがつくくらいでしょうか、平均で30分は待ってましたね。ですから、コンサートに行く前などは、余裕を持ってご飯を食べに行ったほうがいいと思います。
-今後留学する人へ、何かアドバイスはありますか?
須山 私の場合は、西洋音楽の歴史がすごく遠いものだったんです。それが、作曲家のゆかりの地などを訪ねたりして、「こういう所からこういう音楽が生まれたんだな」って実感できて、身近に感じられるようになりました。想像以上のものを感じられたので、ぜひ、皆さんにも、実際足を運んでみてほしいなと思います。
-では、留学前にしっかりやっておいたほうがいいことはありますか?
須山 私の場合は、語学をもうちょっとやっておいたほうがよかったと思いました。片言の英語でも通じるのですが、ドイツ語も少しはやっておいたほうがいいと思います。メニューを見るときや、標識を読むときなども苦労しましたので。通りの名前も細かく書いてありますし、地図も見やすいので、最低限それが読める程度の語学力があればいいと思います。
-留学を経て、今後の進路は?
須山 今、大学4年生で、大学院に進学を希望しているのですが、試験が1ヵ月後なのでまだ分かりません。神戸女学院の大学院があるので。そのまま進めたらいいなと思っています。
-試験では何曲弾かれるんですか?
須山 4曲です。40分程度のプログラムを組まなくてはいけないんですよ。
-いつかまたウィーンにも行ってみたいですか?
須山 はい! すぐにでも行きたいです!
-今度は研究として留学されるのでしょうか、演奏家としてなのでしょうか。
須山 演奏家としてでしたら嬉しいですね。
-今後の活躍を期待しております。本日はありがとうございました。
音楽留学アンドビジョン【イギリス留学&海外音大日本入試vol.321. 2014-09-30 04:00:00 】
簾田勝俊さん/フルート/ミステルバッハ国際夏期音楽マスタークラス/オーストリア・ミステルバッハ
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
簾田勝俊さんプロフィール
プロフィール追加
2009年夏、ミステルバッハ国際夏期音楽マスタークラス において、カーリン・レーダ教授のコースを受講。
-まずは、現在までのご経歴を教えてください。
簾田 高校1年生のときにブラスバンドに入り、フルートを始めました。でも、進学校でしたから1年で辞めたんですけど。
-では、フルートは、ご趣味として練習を重ねてきたんですか?
簾田 いえ、それからずっと遠ざかっていまして。2年半前、57歳の時ですが、キヤノンという会社を辞めて独立し、会社を興したんです。それで、自由時間が出来たものですから、数十年ぶりに再開したというわけです。レッスンにも2年半前から通っています。
-では、講習会に参加されるのは全く初めてだったんですね?
簾田 はい。日本では、新日本フィルの方のレッスンなどを受けたりしたこともありましたが、海外は始めてです。
-これまでに海外に行かれたご経験は?
簾田 はい、仕事を含めてしょっちゅう行っています。
-どこが一番思い出深かったですか?
簾田 世界中ですからね(笑)。個人的には、北欧が好きですね。写真展でも北欧の写真が多いですよ。
-今回、このミステルバッハの講習会に行きたいと思った理由は何だったんですか?
簾田 仕事もあるので、スケジュールが合ったというのが一番の理由ですね。ニューヨークで写真展があったりしましたから、しょっちゅう行ったり来たりは出来ませんし。実は、モーツァルテウムも気になったのですが、オーディションがあるということだったので諦めました。落ちたらやだなと思って(笑)。ミステルバッハはオーディションがないですし、誰でもコンサートに出られるというところが魅力でしたね。
-講習会の参加者はどのくらいでしたか?
簾田 フルートだけで15人くらいです。
-どんな人が参加されていましたか?
簾田 ほとんど学生でしたね。一番若い子は、13歳でした。コンクールで優勝して、そのご褒美として参加していたみたいですけど、かなり上手かったですね(笑)。オーストリア人がほとんどでした。僕以外は、生徒も先生も顔見知りのようでしたね。先生が普段も教えている生徒もいたみたいです。僕は、世界各地から集まってくると思っていたので 、そこは予想と少し違っていました。それはそれで良かったですけど。
-アジアの方はいらっしゃらなかったんですか?
簾田 台湾の子が二人いましたけど、その子たちもオーストリアに留学している子たちでしたね。
-スケジュールはどんな感じでしたか?
簾田 8日間の中で、1時間のレッスンが5回くらいありました。夜はアンサンブルの練習をしましたし、かなり充実していましたね。先生たちのコンサートも含めて、コンサートは3日間ありました。
-先生はどんな方でしたか?
簾田 3人いたんですが、まずカーリン・レーダー先生というウィーンの音楽院の教授がメインで教えてくれました。そして、イタリアの大学で教えてらっしゃる方、もう一人はイスラエル出身のオーストリアの大学の先生でした。それぞれ個性的で面白かったですよ。
-皆さんフレンドリーでしたか?
簾田 そうですね、とてもフレンドリーでしたよ。僕が写真を撮るのを分かっていて、写真を撮ってほしい先生とかもいましたし。いい写真をたくさん撮れたのも良かったですよ。とても美しい生徒もいたから(笑)、レッスン中なんて、ものすごくいい絵になりますし。写真家としても、なかなかそういう機会には恵まれないですからね。
-ぜひ拝見したいです!
簾田 日本でも写真展やると思いますから、見てください。
-レッスンではどんなことを教わりましたか?
簾田 今やっている教わりたい曲を中心に教えてもらうのと、コンサート用のレッスンです。コンサートにおける心構えや姿勢、気持ちのもっていき方とかを教えてもらって、非常に勉強になりました。音楽は人に聴かせるものだっていう考え方とか、やはり違うなって思いました。日本では、練習することが重要なんだっていう考え方ですからね。国民性の違いもあるでしょうが、やはり音楽の国だなと思いましたね。僕も、もともと人前で演奏するのが好きだし、人に楽しんでほしいなという思いを持っていたので、合っていましたよ。日本のレッスンでは、オーケストラに所属している子や音大を卒業した子などもいますが、積極的に前に出て行くということは、あまりしませんからね。
-日本人の国民性でしょうかね。
簾田 「オーケストラに入っていても首席はやりたくない」とか言う人もいますよ。何でだろう?みたいな(笑)。僕は、下手でも首席やらせてくれないと面白くないって思うタイプだし、コンチェルトでも「ソロやらせてくれないかな」とか(笑)。今回の講習会でも再確認しましたが、音楽っていうのは、人を気持ち良くさせるというか、そういうのも重要な要素ですので、そのために練習するのが大事なんですね。
-良い勉強になったんですね。日本の曲を演奏されたそうですが、反応はいかがでしたか?
簾田 「春の海」ね。受けましたよ。コンサート後に、この譜面くれないかって言う先生もいました。日本にも聴かせる曲があるんだ、ということを見せられたのは非常に良かったです。「来年は、絶対モーツァルトのコンチェルトをやる」って言って帰ってきたんですけど(笑)。オーストリアですから、やはりモーツァルトもやりたかったんですよ。僕は、かぶれているわけじゃないですけど、ヨーロッパは美術や芸術の面で素晴らしいものがあると思っていますので、もっと知りたかったんですよね。
-やはり、聴かせる音楽という点では、日本とは違いましたか?
簾田 練習を聴いていても、日本とは根本的に違うなって思いました。あそこの雰囲気で聴くのもまた違いますしね。初日に、先生が弾いたのを聴いた時、ああやっぱり先生は違うなって思いましたけど、その後、生徒の音を聞いても、やっぱり音の流れが違うなって感じましたね。非常に心地良いんです。そういう心地良さが音楽の原点になっているのかなって思いました。音楽ではないですけど、僕の写真もそういうものが多いんですよ、静けさを感じるような心地良いものが。
-レッスンは、基本的にドイツ語だったんですか?
簾田 僕の個人レッスンは、ほとんど英語でしたね。他の生徒はドイツ語が多かったですけど。イタリアの先生は、英語のほうが得意だったので英語でしたが、基本的に二人の先生はドイツ語でしたね。
-言葉のほうは大丈夫だったんですね。
簾田 ええ、英語は。普段使っていますから。
-練習はどこででされていたんですか?
簾田 練習室は特になかったんです。自分の部屋がかなり広いのでそこでやったり、先生のレッスン室でやったりました。夏休みの間のドミトリーのような所でしたので、どこで吹いてもOKだったんです。
-自由で良かったですね。どのくらい練習しましたか?
簾田 僕はそんな長くないです、2時間くらいでしょうか。他の子は、朝から晩までやっていましたね。朝8時っていうと音が聞えてきましたから。
-レッスンや練習の時間以外は、何をされていましたか?
簾田 レッスン以外は、写真を撮っていました。僕は、オーストリアやドイツの田舎の風景が好きなので。非常にいい写真がたくさん撮れましたよ。歴史的な建築物がたくさんありますからね。
-街の様子はいかがでしたか?治安は良いほうですか?
簾田 オーストリアやドイツは、いろんなところに何十回と行っていますが、怖いことはないですね。ただ、若い女の子たちは分かりませんけど。ナイロビなんかに比べたら安全ですよ(笑)。オーストリアは夜9時にもなれば、レストランなども閉まってしまいますから。イタリアやギリシャは夜2時くらいまでは大騒ぎしてますけど。
-街の人の様子はどんな感じですか?
簾田 オーストリアやドイツは、基本的には真面目な人が多いですよ。日本みたいに繁華街が乱れているとかそういうのはないですね。そして、特にミステルバッハは田舎なので、夜にはほとんど人がいませんよ。スーパーなども6時には閉まってしまうような所ですから。ほとんど音楽しかやることがないっていう感じですね。
-音楽を集中して勉強したい人にはピッタリですね。
簾田 みんな音楽が好きですよね。参加者は小さい頃から音楽をやっている子ばっかりだから。僕くらいですよ(笑)。でも、行ってよかったと思います。まあ、海外にあまり行ったことのないような男性だったら、少しキツイかもしれませんが。孤独になっちゃうかもしれないから(笑)。僕は、音楽が好きな人なら、もっと来たらいいのにって思いますけど。
-どこかに遊びに行かれたりはしなかったんですか?
簾田 行きませんでしたね。その1週間くらいは音楽漬けでいたいと思ってましたから、良かったですよ。
-宿泊先は、寮だったんですね。
簾田 寮みたいな感じですね。いろいろな合宿の人も使うのでしょうか、ほとんど誰もいなかったです。ご飯も、簡単な朝食が出るくらいですから。
-管理人さんはいらっしゃらなかったんですか?
簾田 いなかったです。カーリン・レーダー先生と、彼女のご主人が中心になって面倒を見てくれたので、非常にこじんまりとした感じでしたよ。
-カーリンレーダー先生の対応はいかがでしたか?
簾田 非常に良かったですよ。ご主人も素晴らしい方でしたね。クラリネットとサックスの間みたいな楽器でアンサンブルに参加してくれたり。演出が好きな方で、野外コンサートのときのライティングなどは、素晴らしかったですよ。僕が持っていった写真データを使って、日本の曲のときは日本の写真を壁に投影したりして。観客はワインを飲みながら、それを聴くっていう雰囲気を作ってくれたりしました。夫妻が住んでいるところが車で10分くらいのところらしく、いろいろ世話を焼いてくれて楽しかったですよ。
-宿泊先から講習会場へは、どうやって移動していたんですか?
簾田 一緒の場所だったんです。コンサートだけがシティホールだったんですよ。
-ご飯は、どうされていたんですか?
簾田 朝はパンとハムとチーズ、あとは果物がちょっとある程度です。昼は、みんなでピザを取ってつまんだりという感じでした。夜は、アンサンブルの練習を毎晩6時から10時くらいまでやっていますから、その後みんなで飲みに行ったりしました。食べるものはソーセージくらいしかないんですけどね。質素そのものです。
-外食でも安く上がるんですね。
簾田 ええ。ミステルバッハには、日本のように何千円も何万円もするような食事をする場所はないですからね。まあ、千円も出せば腹いっぱいですよ。
-今回は、オーストリアの参加者が多かったということですが、海外の人と上手く付き合うコツはありますか?
簾田 僕は、写真の話がありますからね。相手も聞きたがりますし、僕はあまり苦労はしないですね。
-簾田さんは、積極的に話されるほうですか?
簾田 そうでもないですよ。向こうから必要なことを話しかけてきて、そこから話題になっていくという感じですかね。イタリア男みたいに、女の子に声を掛けまくるようなことはしないですよ(笑)。若い学生ばかりでしたが、ひとり中年の女性もいらして、その方も良く話しかけてきましたね。
-趣味的なものがあると、話しやすいんでしょうね。
簾田 そうですね。日本の中高年の男性で、留学される方はあまりいらっしゃらないでしょうけど。
-それがけっこういらっしゃるんですよ! ジャズピアノとかが割と多いですね。クラシックではバイオリンの方とかいらっしゃいますよ。
簾田 そうなんですか。フルートは全体的に女の子が多いですけどね。
-さて、留学中に何か困ったことはありましたか?
簾田 全然、何もなかったです。僕は何十回と行っていますが、ドイツ、オーストリア、フランスなどでは、今まで怖い思いをしたことは全くありません。今回も、ローマから飛行機が1時間半くらい遅れたんですけど、ドライバーが待っててくれましたし。真面目なお国柄だなと思いましたよ。
-今回講習会に参加して、良かったと思う点は何ですか?
簾田 それはもう、最後のコンサートですね。若い子たちが、みんなで親指を突き上げて、日本語で「良かった!良かった!」って言ってくれたことです。日本人ピアニストの渡辺さんから教わった言葉らしいんですけどね。アンコールではないのですが、演奏後、もう一回舞台に立って拍手を浴びたのが嬉しかったですね。
-それは素晴らしいですね!日本人が日本の曲を演奏したのも良かったのでしょうかね。
簾田 一番感激してくれたのは、オーストリアの大学から来ていた先生ですね。カーリン・レーダー先生が忙しくて来れない時、舞台のリハを見てくれたんですが、演奏後にハグをしてくれたりして。確かに、「春の海」をフルートで演奏するのとても良かったですよ。日本の誇る名曲だなって思います。
-現地の方は、日本の曲を聴く機会もなかなかないでしょうからね。
簾田 カーリン・レーダー先生が、「絶対受けるから、この曲を演奏しなさい」っておっしゃって。でも、日本の曲とはいえ、勉強になりましたよ。やはり人に聴かせる音楽としての教え方ですよね、楽譜どおりに弾きなさいというのではなく。そういう教わり方をしたことはなかったので、勉強になりました。
-教え方も国によって違うんですね。
簾田 やはり、あれだけのものを作り出す国ですものね。僕は、クラシックの専門家ではないですが、クラシック音楽って良く出来ているなって思いますよ。僕はずっと技術屋として、もの作りをしてきましたから、音楽も「どうしてこんなものが作れるんだろう」って、もの作りの観点からも感動してしまったんですよね。そういう面でも、行って感じられて良かったと思います。僕は、やはり感動から物事が始まるって思っていますから。
-ブログを拝見しても、良い経験をされたというのが伝わってきました。では、留学に参加してみて、自分が変わったなって思うことはありますか?
簾田 この年だから簡単には変わりませんが(笑)、先ほども言ったように、音楽に対する見方は変わりました。本質に近いものを感じられて良かったです。その環境にいないと聴こえない音っていうのもありますから。それと、音楽や絵画、写真でもそうですが、人に感動を与えることが大事だなって、今まで以上に感じました。ヨーロッパでは、どんな小さい街でも、コンサートをやっていますから、そういう感動に触れる機会が非常に多いでしょう。日本ではなかなかないですからね。
-音楽に対する姿勢は、日本とは違いますか?
簾田 ヨーロッパでは、音楽そのものを学ぶことが大事だっていうか、本質的なものを勉強する考え方ですが、日本は、ロビー活動が重要視されるような感じが、少なからずありますからね。
-では、今後留学する人へアドバイスをお願いします。
簾田 積極的に行ったほうがいいと思います。
-「行きたいけど行けない」って言っている人ほど、行ったほうがいいですよね。
簾田 僕は、長年小さいオーケストラに入っていますが、向こうのアンサンブルの指導を受けてみて、やはり全然違うなって思いましたからね。カーリン・レーダー先生のご主人を見てても思いました。アンサンブルのとらえ方や、体の使い方までも違いますから。今回、垣間見ただけですが、本気でやるんだったら、海外で勉強することはいいことだと思いますよ。
-では、簾田さんの今後の音楽活動について教えてください。
簾田 音楽でメシを食おうとは思っていませんけど(笑)、機会を作ってできるだけ演奏したいです。すぐ近くに信州国際音楽村っていうのがあって、そこの屋外の木の舞台に上がって、一人で演奏したりとかするんですが、観客が一人二人で手を叩いてくれるだけでも嬉しいですからね 。この前も外で吹いてたら、「おじさんすごいね、フルート吹いているの?」って声かけられたりして。田舎ですから、普段あまり聞く機会がないと思うんですよ。なので、ここで小さい子どもたちにフルートを教えたりもしたいとも思いますね。本当は、犬がいなければ、2年や3年ヨーロッパに行ってみたいんですけど。スロバキアの大学一年で卒業できるとかいうプランもあるようなので、そういうのいいかなって思うんですよ。1年くらいは音楽の専門の勉強をしたいなって思います。でも、犬がかわいそうですからね(笑)。
-せっかく見せる音楽を学ばれたので、演奏する機会がたくさんあるといいですね。
簾田 若い子たちは一生懸命音楽をやっていますけど、もっともっと人前で演奏するということをやったらいいと思いますよ。 ・・・あなたは音楽をやっていたんですか?
-私は中学、高校とピアノを専門で学んでいましたが、才能がなくって・・・。
簾田 そうですか。でも、若いときに、自分の才能の限界は決めちゃいけないって思いますよ。僕も昔は、才能が必要だと思っていたんですが、今は、目標意識を高く持つことだなって、そういう気がします。僕の場合は音楽専門でやってきたわけではないからかもしれませんが、「音楽も出来る」っていうのが、とても嬉しいんですよ。少しでもやっていて良かったなって思いますから。才能のある人っていうのは、必ずいるんでしょうけど、音楽って一生懸命やれば、誰でも人に感動を伝えられると思いますよ。
-なんだか、とても励まされました!今日は本当にありがとうございました。
音楽留学アンドビジョン【イタリア留学&海外音大日本入試】
川口成彦さん/ピアノ/オヴィエド国際夏期講習会/スペイン・オヴィエド
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
川口成彦さんプロフィール
2009年夏、オヴィエド国際夏期講習会において、ガリーナ・エギャザローワ教授のコースを受講。
-最初に、川口さんの簡単なご経歴を教えてください。
川口 受賞歴としては、第2回青少年のためのスペイン音楽ピアノコンクール第一位、最優秀スペイン音楽賞受賞、横浜開港150周年記念ピアノコンクール第3位です。
-素晴らしい受賞歴ですね。以前から他の国の音楽よりも、スペイン音楽に興味があったんですか?
川口 はい、スペイン音楽”も”好き、という感じですね。民族色の強い音楽ですので、スペインも好きだし、チェコやノルウェイの作家も好きですね。
-ピアノを始められたのは、いつごろですか?
川口 小学校1年生からです。
-現在は、東京芸術大学の学生さんですよね。
川口 はい。でも、ピアノ科ではないんですよ。音楽を研究する学科で、ピアノも研究しているという感じです。
-将来の夢は、演奏家になることですか?
川口 一応、音楽を研究しながら演奏するというのが夢ですが、学校の先生になれたら満足かな、とも思っています。
-柔らかい雰囲気なので、生徒さんにも好かれるでしょうね。さて、今回講習会に参加されたきっかけを教えてください。
川口 スペインのコンクールで賞金をいただきまして。今まで、海外で音楽を学んだ経験がなかったので、いい機会だから行ってみようと思いました。
-では、今回が初めてだったんですね。スペインを選ばれた理由は?
川口 そのコンクールがスペイン音楽だったことと、今年がアルベニス没後100周年だったことです。興味を持っていましたので、ぜひ今年スペインに行きたいと思っていました。また、グラナダなどスペインの世界遺産に憬れていまして。独特な美しさがあるので、それを観てみたかったというのもあります。
-講習会の参加者は、どのくらいの人数でしたか?
川口 ピアノは12人でした。ほとんどスペイン人だったんですけど、スペイン在住のアルメニア人やロシア人などもいて、僕以外は全員スペイン語を話せる人たちでした。
-皆さんは、どんな方々でしたか?
川口 とてもいい人たちでした。スペイン人は気さくな方が多いので、皆さんのほうから話しかけてくれて、嬉しかったです。
-講習会のスケジュールは、どんな形でしたか?
川口 明日は誰にしますと、先生が決められ、平等な回数レッスンを受けられるようになっていました。だいたい、2日か3日に1回レッスンがある形ですね。自分のレッスン以外は、練習をしたり、他の方のレッスンを聴講したりしていました。最後の3日くらいで選抜コンサートがあり、それで締めくくられました。
-レッスンは何時間くらいでしたか?
川口 だいたい1時間です。じっくり見てもらえました。
-コンサートは勉強になりましたか?
川口 はい。コンサートに出演させてもらったんですが、日本人のいない会場で演奏することは、もちろん初めてでしたので、すごく緊張したんですが、やはりとても嬉しかったです。他のバイオリンやチェロの生徒の演奏を聞けたのも、すごく刺激になりました。
-素晴らしいですね!では、先生についてお伺いします。どんな先生でしたか?
川口 普段は優しい方なんですが、レッスン中は厳しい方でした。身長も2メートルくらいある女性で、怪獣みたいな先生だったんです(笑)。厳しく根本的な部分を注意してくださいました。ひとつの曲としての問題点ではなく、これからピアノを続けていく上でも、ためになる指摘をずいぶん受けました。教え方も上手な先生で、とても勉強になりました。
-その中で最も印象に残っていることは?
川口 和音についてですね。ピアノ音楽は和音がたくさん出てきますが、和音の中のひとつひとつの音の響きに、順序というか優劣があるわけです。それを判断してよく聞くことを習いました。たとえば、ソプラノが一番輝き、その次がバス、アルト、テノールの順だとか。それを全部吟味しながらコントロールしていく力や、耳を養っていきなさいという指導を受けたことが、一番印象に残っています。
-新しい音楽の世界を開いたのですね。レッスンはスペイン語だったんですか?
川口 はい。スペイン語、あるいはロシア語でした。友だちが英語に訳してくれました。
-先生はロシアの方だったんですか?
川口 ロシア語圏の方ですね。スペイン語かロシア語かを話される先生でした。
-練習はどこでされたんですか?
川口 学校の中に練習室が何個かありました、。すごく弾きやすいアップライトピアノが置いてありました。
-その練習室は、何時間かごとに、皆さんでシェアする形ですか?
川口 いえ。いったん入ったら、ずっとそのまま使えます。僕は、ずっと占拠していました(笑)。
-他の講習会では、交代で、という形が多いようですが、ラッキーでしたね。どのくらい練習されましたか?
川口 多い日は9時間くらいです。せっかく来たから頑張ろうと思いまして、一日中こもっている日もありました。
-レッスンや練習以外の時間は、何をされていたんですか?
川口 街を散策したりしていましたね。オヴィエドは世界遺産の街なので、とてもキレイなところなんですよ。そして、バスで少し行けば、また別の世界遺産の街がありますし。中世以前の教会があったりして、とても素晴らしかったですね。
-世界遺産を見ると、人生観が変わるという方もいらっしゃいますが。
川口 基本的に、僕は日本が大好きなのですが、日本とはまた違う空気があって良かったです。近くにサンティアゴ・デ・コンポステーラという、キリスト教の第三の聖地があるんですが、そこへ向かう巡礼の方もたくさんいらっしゃったんです。心からキリスト教を信仰している人たちを見て、とても感慨深かったですね。
-街の様子はいかがでしたか?
川口 スペインでも北のほうの街なので、治安が良いほうらしくて、安心して生活出来ました。
-街の中でショッピングしたりするときは、スペイン語ですか?
川口 はい、スペイン語です。英語も通じる方は少しいますが、ほとんどはスペイン語オンリーでした。
-お友だちと一緒に行かれたんですか?
川口 ほとんど一人でしたね。そのほうが気楽ですので。でも、夜はバルに友だちと行ったりして、すごく楽しかったですよ。スペインはバル巡りが盛んで、一つの店に行ったら次の店のタダ券をくれたりするので、夜通し遊べてしまうんです(笑)。
-スペインならではの雰囲気ですね。
川口 はい。あと、日が沈むのが夜10時なんです。夕食もそれくらいからですから、子どもでも11時くらいまでは起きているんです。10時くらいからワイワイ始まるのは、スペインならではですね。それでいて、昼もにぎやかなんですよ。この人たちはいつ休むんだというくらい、一日中人がたくさんいて、楽しんでいました。
-昼は何をされていたんですか?
川口 街を散策したり、サルスエラという歌劇も観に行きました。オペラとは違う、スペインで生まれ、スペインだけに根付いてきた歌劇です。舞台装置がすごくて、言葉は分からなかったんですが、音楽も素晴らしくて感動しました。あとは、演奏会も聴きに行ったりしましたね。
-素敵ですね。宿泊先はどんなところでしたか?
川口 街の中のフラット(アパート)でして、そこを4人でシェアしました。
-ルームメイトは、どんな方々でしたか?
川口 全員バイオリンの講習生でした。年齢はみなさん年上だったんですが、みんないい人たちでした。スイス人とスペイン人、それから、ギリシャと日本のハーフの人がいました。この人は、ベルギー在住の有名なバイオリニストなんですが、やはり、一人だけ断トツにレベルの高い人でしたね。この前来日したので、演奏を聴きに行ってきました。
-良い出会いだったんですね。フラットの大家さんは、そこには住んでいなかったんですか?
川口 ええ。なので、まったく自由に暮らしていました。
-そのフラットと講習会場は、どのくらいの距離があったんですか?
川口 歩いて10分くらいです。何度も行き来できるような距離でしたので、バスは利用しませんでした。
-食事はどうされていたんですか?
川口 ほとんど外食です。スーパーでパンが60セントくらいと、安いんです。2、3個買って、200円くらい。水が1リットル30セントくらいですから、それが一番安く済ませるときのパターンでしたね。ちょっとしたカフェでパスタを食べると6ユーロくらい、700円程度でしょうか。日本とそんなに変わらないくらいですね。ちょっと贅沢してレストランに入ると、10ユーロくらいはかかりました。お店もたくさんあったし、味もおいしかったので、まったく困りませんでした。
-日本と物価に差はなかったんですか?
川口 ちょっと安いくらいでしょうか、今は。
-外国人の方とお話されたりしたと思いますが、上手く付き合うコツは何でしょうか。
川口 なんでもいいから話すということです。ある友だちとは、「好きなピアニストは?」「この曲知ってる?」「ビートルズ知ってる?」など、ひたすら質問し合っていましたね(笑)。「お互いさっきから、~知ってる?って聞いてるだけだけど、楽しいね。」って笑ってました。スペインで日本のマンガがブームらしく、「名探偵コナン知ってる?」って聞かれたりもしましたよ。ただ、一人になりたいときは、無理をしないことも大事だと思います。「今日は本を読みたいから」とか「今夜はバルはやめておく」とか、自分のやりたいことを優先させてた時もありました。その分、一緒にいるときはたくさんしゃべりましたけど。
-自分のペースを崩しすぎないように、ということですね。
川口 ええ。疲れているときに、さらに英語で話すのは、やはり疲れますから。無理に話すと、無愛想な顔してるかもしれなくて、相手に嫌な思いをさせてしまうかもしれないじゃないですか。基本的には、たくさん話しましたけど、疲れているときはそんなふうにしていました。
-お互い無理をしないことも大事ですね。では、特に困ったことはなかったんですか?
川口 あまりなかったかもしれませんね。プラス思考なタイプなので。生活面では、全く苦労せず、楽しく快適に過ごすことができました。あえて言えば、もっと話せたら良かったということですかね。もっと日本のことも教えたかったし、もっとスペインのことも聞きたかったです。
-講習会に参加して良かったと思った瞬間は、どんなときでしたか?
川口 いちばん良かったのは、コンサートで演奏できたことです。自分では納得いかない部分のあった演奏だったのですが、「ブラボー!」って言ってもらったりして、観客の皆さんがとても温かかったです。演奏が終わったあとも、「日本人なのに、よくスペインの音楽をこんなに表現できたね」って褒めてもらったりしたんです。本場の人たちに、自分の演奏が認められたっていうのがすごく嬉しかったですね。日本じゃなくても、音楽って通じるんだなって改めて思いました。あとは、外国にも友だちができたことです。今まで音楽をやっている友達は、日本人しかいなかったですから、世界に広がったというのは、とても嬉しいことです。
-良い経験だったのですね。ぜひその出会い大切にしてください。
川口 はい。スペイン人の友だちは、来年日本に行きたいって言ってるんですが、どうやら本気で来そうです(笑)。
-留学して、ご自身が一番変わったことや、成長したな、と思うことはどんなことですか?
川口 自分はどこでも生活できるんだな、っていうのが分かったというか(笑)、自分に自信がつきました。もともと一人旅は好きで、日本国内では、一人でどこにでも出かけていたんですが、今回は初めての海外でしたから。やはり最初は不安でしたが、それをやり遂げたという達成感を感じました。日本人が一人もいない街だったので、特にそう思いましたね。
-日本とスペインで、大きく違う点は何でしょうか?
川口 スペイン人は明るく社交的で、誰とでも仲良くなれるという感じでした。日本人ではなかなかない感覚ですね。偶然、街の中で結婚式を見たんですが、それも日本とは大きく違ってました。スペインには、ガイタというバグパイプみたいな楽器があるのですが、街中にガイタが鳴り響き、「今日、新婚さんが誕生しましたよ!」と、街全体で祝福していました。ひとつの幸せをみんなで共有しようという感じで、お祭り状態でしたね。あと、違うことといえば、やはり、日が沈むのが10時ということでしょうね。昼からたっぷり遊んでいても、まだ明るい。そして暗くなってからもまだ遊びますからね。マクドナルドでビールも飲めますし(笑)、一日中、たくさんの人が楽しんでいることは、一番違う点でしょうか。
-スペインのお国柄なんでしょうね。では、今後、留学される方にアドバイスをお願いします。
川口 英語はすごく重要です。今回、それを実感しました。「英語は地球語」になってきています。どの国の人たちも英語は教育されているので、子どもでもみんな話せるんです。もしかしたら、日本の英語教育は遅れているんじゃないか、とも思いました。自分の英語力がないだけなんですが(笑)。もっと事前に勉強していたら、レッスンももっと充実していたかもしれないし、交友関係ももっと深く広くなっていたかもしれない・・・・そう考えると、やはり悔しいですから、英語の勉強だけは、きちんとしておいたほうがいいと思います。
-今後の活動や進路など、具体的なプランがあれば教えてください。
川口 4年生には卒論を書かなければいけないので、そろそろテーマを決めて、研究していかなければいけないですね。コンクールは、たぶんいろいろ受けると思います。優勝をするためにコンクールを受けるというより、その練習が充実したものになるので、コンクールは結果にこだわらずたくさん受けたいです。
-卒業論文は、スペイン音楽を研究されるという可能性もありますか?
川口 はい。スペインは候補ですね。
-今後のご活躍をお祈りしております。本日は本当にありがとうございました!
音楽留学アンドビジョン【ヨーロッパ留学&海外音大日本入試vol.319. 2014-09-16 04:00:00】
海瀬京子さん/ピアノ/ベルリン芸術大学/ドイツ・ベルリン
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
海瀬京子さんプロフィール
静岡県出身。西島淑恵、高原節子、塩谷安圭美、播本枝未子、倉沢仁子、エレーナ・ラピツカヤの各氏に師事。東京音楽大学付属高校、同大学を経て同大学院修了。2004年第28回ピティナピアノコンペティション特級準金賞および聴衆賞、併せてロイズ賞、三井ホーム賞、王子賞を受賞。2005年第74回日本音楽コンクールピアノ部門第1位。併せて野村賞、井口賞、河合賞を受賞。2010年第17回アルトゥール・シュナーベルコンクール第1位。これまでに東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、セントラル愛知交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、群馬交響楽団、東京音楽大学シンフォニーオーケストラ等と共演。また、NHK交響楽団首席奏者メンバーと室内楽を共演。2007~2010年度(財)ローム・ミュージックファンデーション奨学生。現在ベルリン芸術大学に在籍中。
-まずは、簡単なご経歴をお願いします。
海瀬 5歳からピアノを始めまして、東京音大の付属高校に入学しました。そして、そのまま東京音大と同大学院を修了しまして、現在ベルリン芸術大学に留学中です。
-ずっと長く音楽をやっていらっしゃるんですね。最初に始めたのは、近所のピアノ教室ですか?
海瀬 はい。ただ、その前に始めは近所の音楽教室に入って、みんなとわいわい音楽を楽しんでいました。母が元音楽講師だったのでグランドピアノが家にあったりして、音楽が身近にある環境で育ちました。
-本格的にピアノを学ぼうと思ったきっかけは?
海瀬 ピアノを始めた頃から、なんとなく音楽家になりたいとは思っていたんです。具体的には、中学校くらいの頃から、早く本格的な教育を受けたいと思うようになりました。のちに教わることになる高校・大学時代の教授に教わりたいなって思ったとこから、本格的に音高受験を準備し始めたという感じですね。
-留学を決意されたきっかけは?
海瀬 実は、元々はあんまり留学のことは考えていなかったんですよ。運良く奨学金がいただけることになったので、留学を決意しました。
-奨学金はどの団体のものですか?
海瀬 ローム・ミュージックファンデーションです。大学院2年の時にいただいたんですが、その奨学金は、国内の学校でも海外の学校でも、最長4年もらえると言うものだったんですよ。なので、日本の大学院で残りの1年間分を使って、今のベルリン芸大が3年のプログラムなので、ちょうどいいなということで。
-ベルリン芸大を選ばれたということですが、決めるまでのいきさつは?
海瀬 日本の先生が、この先生がいいんじゃないかとおっしゃったんです。実際、受験する前に、現在の先生の前で演奏したところ、先生も気に入ってくださいまして。あと、都会に行きたいという思いもあったんです。いろいろな講習会を受けたりして悩んでいたんですが、ベルリンに来た時、しっくりきたんですよね。それで、やっぱりここにしようと思いました。
-どういった講習会に参加されたんですか?
海瀬 ザルツブルグとか、浜松でやってる浜松国際ピアノアカデミーなどです。
-今師事されている先生は、どんな方なんですか?
海瀬 エレーナ・ラビツカヤ先生と言うロシア人女性です。
-ベルリン芸大を志望されている方は非常に多いのですが、受験の内容や出願書類などについて教えてください。
海瀬 私の課程の試験は実技のみです。曲も、バッハ、古典のソナタ一曲と自由曲ですね。でも、とにかく受験者が多いので、試験は1次試験と2次試験にわかれて行われます。1次試験では2~3分しか弾かせてもらえなかったです。2次試験になると、もうちょっと長く弾けるんですが、それでも全部は弾かせてもらえなかったですね。その短時間で、とにかく結果を出さなきゃいけないので、それは大変でしたね。出願書類は、そんなに覚えていませんが、特に多くなかったと思います。願書と写真、成績証明書、卒業証明書、それと語学の修了証明書などです。
-結果はその場で分かるんですか?
海瀬 その日のうちにだいたいの結果は出ますが、会議を経て正式に決まるので、書類を待たなくてはいけません。人によっては、先生からの情報では合格だったのに、会議後書類が送られてきて不合格だった、なんて人もいました。
-志望動機書などはなかったんですか?
海瀬 そういうのはありませんでした。
-試験の時の思い出を教えてください。
海瀬 すごく短くしか弾かせてもらえないと聞いていたので、私は、山を張ったというか、大体ここが出るだろうと予想して、そこだけ練習していたんです。でも、受験の直前に先生に聞いていただいた時、先生に「あなた、なんでここは弾かないの?」と指摘されたんですよ、あまり準備してなかったところを。「ここも出されるかもしれないから弾きなさい。」と言われたんです。それが、試験の4~5日前だったんですけど、急遽それを練習しましたら、実際、そこが試験に出たんですよ! やっぱり、ちゃんとやっておかないとだめなんだと思いましたね(笑)。
-レッスンしてもらって良かったですね!留学に関しての手続きは、ほぼご自分でされたんですか?
海瀬 ドイツ語が全然出来なかったので、ドイツ語の詳しい方に助けていただきました。もちろん全部ではなく、最初自分で書いて、最終チェックをお願いしました。
-では、手続きに関しては、そこまで苦労はされなかったんですね。
海瀬 はい。私は周りの方に恵まれていまして。こちらの先生とのやり取りも、大変素晴らしい先輩が親切にお世話をして下さいました。とてもありがたかったですね。
-そういう方がいると心強いですね。ちなみに留学準備はどのくらいから始めましたか?
海瀬 今の学校に決めてからとなると、半年ほど前からでしょうか。
-それまでドイツ語は勉強されてましたか?
海瀬 はい。ベルリン芸大は語学が厳しい学校でして、入学してから1年以内に、中級レベルの試験をパスしないと退学になってしまうんですよ。私は、大学でドイツ語を専攻してなかったので、慌てて1年前くらいから学校に通いました。けれど、実際はこっちに来てからはなかなか活かせなかったですね。最初はすごく辛かったです。
-ドイツに渡ってから、語学学校には行ってたんですか?
海瀬 はい、もちろん。毎日通っていました。最初の一年は、いったい何をしに来たんだろう?というくらい、語学ばっかりやっていました。そうしないと、試験にパスできないので。
-じゃあ最初の1年は語学学校に行きつつ、音楽はレッスンのみという感じですか?
海瀬 そうですね。今は語学の試験もパスしたので、レッスンのみです。そういうコースなので。ベルリン芸大は、とにかく自由な時間が多いんですよ。日本での成績証明書を見ながら、どの授業を取ったらいいか照らし合わせていくんですが、私の場合、たいていは日本で終えてきていたんですね。なので、室内楽とレッスンのみ取っています。室内楽は日本でもたくさん勉強していたのですが、なぜか取らないといけないことになりました(笑)室内楽というのも授業があるわけじゃなくて、3回本番をやればいいというものですし、レッスンも週に1回です。本番がある時は、追加でレッスンしてくださいますけど。
-噂なんですが、先生の推薦があると、語学の成績に関して厳しくないというのは本当ですか?
海瀬 それはいわゆる力のある先生のみ、でしょうね。でも、そのような先生に師事していても語学試験は取らないといけないでしょうし、あくまで噂程度、ととらえていた方が良いと思いますよ。
-そんなに甘くないですよね。
海瀬 でも、たいていの方はクリアしてますので、それほど恐れる必要はないかもしれませんが、一生懸命やらないといけないのは確かです。
-学校の雰囲気はどんな感じなんですか?
海瀬 ベルリン芸大は大きいので、校舎も何個かに分かれていますから、みんなばらばらでよく分からないんですよね。特徴は・・・、自由に使える時間がたくさんあるということでしょうか。自分の時間がたくさんあると思います。だから、いかようにも頑張れるし、怠けようと思ったらいくらでも怠けられる。それはどこでも同じかもしれませんけど。
-ドイツの学校は、厳しいのかなというイメージがあったのですが。
海瀬 自己管理がきちんと出来ていないといけないと思います。中間試験などもないので、3年間で唯一の試験は、卒業試験ということもありえますから。日本の学校みたいに、一年に一回試験があるわけではないで、時間の使い方は、その人にゆだねられています。自由なようで、それはある意味では厳しいことだと思います。
-そうなんですね。学生さんは、みなさん一生懸命練習されているんですか?日本の学生ほど、みんな練習しないと聞いたのですが。
海瀬 私も本番前など以外はそれほどはしてない方だと思いますけど。日本人の中でも、人それぞれですかね。でも基本的にきちんと練習しているんじゃないでしょうか。あと、こっちの人は、休むときは休むってはっきりしていますね。日曜とかは、学校も空いているみたいですね。
-日本人留学生の方はけっこういるんですか?
海瀬 はい。ピアノだけで、10人以上いるんじゃないでしょうか。ベルリンには、もう一つ音大がありますので、そちらも合わせると、かなり多いと思いますよ。
-日本とドイツで大きく違うことは?
海瀬 重複しますが、時間の使い方が自由に出来るので、自分自身にかかっているということでしょうか。
-授業やレッスンは日本と違いますか?
海瀬 特に違いはないと思います。日本か海外かではなく、それは担当の先生によって違うものでしょうね。私が日本で師事していた教授は長くドイツにいらした先生だったので、その影響か日本にいた時からその時々の状況によってレッスン内容が全く違いました。私の出来によってはレッスンが成立せずに終わってしまう、なんてこともありました。海外だともっとルーズ、のようなイメージを持っているかもしれませんが、逆に今の先生の方が時間に合わせて進行されているので、それぞれ先生方によって違いますね。
-熱心な先生なんですか?
海瀬 そうですね。細かく見てくださいます。段階を踏んで教えてくださるというか。
-レッスンは、時間通りに始まりますか?
海瀬 はい。私が日本で師事していた先生は大変お忙しい方でしたので、3~4時間待つこともしばしばでしたが、こっちに来てからのほうが時間通りですね。生徒数も日本の比にならないほど少ないですから。遅刻しても、それもその生徒の責任って感じで、咎められたりしないんです。心の中ではむっとしているかもしれませんが(笑)。
-学費は、奨学金でまかなえているんですよね。
海瀬 はい。
-日本でしっかり勉強しておいた方がいいことはありますか?
海瀬 勉強の仕方というのか、音楽に向かう姿勢をきちんと確立しておいたほうがいいと思います。自分で作り上げる能力を持っておかないといけないですね。それがないと、軸がどんどんぶれていってしまうので。
-日本だと、先生主体で音楽を作っていくというイメージが強いですが、それはないんですね。
海瀬 ないですね。日本、海外に関係なく基本は自分で作り上げるものだと思います。ですから自分で作り上げる力を培っておかないといけないのではないでしょうか。やはり、先生によっては癖みたいなものもありますから。「これは先生の癖だ」と判断できるようになっていないといけないというか。
-いろんな先生に見ていただくというのはいかがでしょうか。
海瀬 それはいいことだと思います。先生によってはそれを嫌う方もいらっしゃいますけど。でも私は、いろんな見方を教えていただける貴重な機会だと思います。
-あと、やっぱりドイツ語は勉強しておいた方がいいですよね。
海瀬 それは100%そうですね。そうでないと、ストレスだらけになってしまいますから。私も未だに出来ないですけど、最初の頃は、外に出るのもイヤでしたから。
-ベルリンは、ドイツ語だけなんですか?英語もOKなんですか?
海瀬 ドイツ語ですね。私の先生はロシアの方ですが、英語は一切話せないので、ドイツ語かロシア語のみですね。ぜひ日本で勉強しておいたほうがいいと思います。
-日ごろの練習はどのくらいされていますか?
海瀬 家でやったり学校でやったりするんですけど、本番前になって、ようやく弾き始める感じなので・・・(笑)。2~4時間とかでしょうか。
-休みの日は、どこかに行かれたりすることが多いですか?
海瀬 特にはどこにも出かけてもいないんですけど、こっちに来てから、思いきってピアノから離れてみるということもしてみています。
-不安にならないですか?
海瀬 それはないですね。周りののんびりした雰囲気を見ていると、そういった時間を過ごしてみるのもいいのかもしれないと思って。そういった日常的な「余裕」を作ることによって、自分の音楽にも何か良い影響があるかもしれない、と思います。それと音楽マンションのような、防音の部屋ではないので、周りの方の生活を考えなくてはいけないですし。
-フラットで一人暮らしですか?
海瀬 はい。ピアノをレンタルして、家で練習しています。
-弾いてはいけない時間帯とかがあるんですか?
海瀬 一応、日曜の午前中は弾かないようにしているとか、夜も8時くらいまでにしてます。私のところは周りの方も理解のある方々なので。そこらへんはフレキシブルにやっていますね。
-いい家が見つかって良かったですね。
海瀬 そうですね。みなさん住宅事情で苦労されていますからね。学校では、2時間くらいしか練習出来ないので。日本と違って、普通のレッスン室で練習するので、先生がレッスンをしていると部屋の数が減ってしまうんですよね。
-2時間でも足りないのに、大変ですよね。
海瀬 そうですよね。だから、ピアノの人は、たいてい自分の家にピアノを入れています。
-学外でのセッションやコンサートの機会は多いんですか?
海瀬 それもやはり、コネクションでしょうか。力のある先生のところですと、そのつながりで声がかかってくるみたいですが、私の先生はそういう方ではないので、自力で頑張って機会を作っていかないとなかなか無いです。なので、学外での演奏の機会はあまりないですね。
-何かに出演されたりしましたか?
海瀬 友達と室内楽をやったり、学内で行われたコンクールに出場しました。知人の方からリサイタルの話を紹介していただいたり、来年はコンクールの副賞でベルリンでもリサイタルの予定があります。
-やっぱりコネクションって大事ですね。現地の音楽の業界のツテは出来るのもですか?
海瀬 それもやっぱり先生によるかもしれませんが、基本的にはコンクール受けたり、自分でチャンスをつかむことが大事だと思います。
-留学生の皆さんは、コンクールとか受けてるんですか?
海瀬 はい。ドイツ国内外に限らず、受けてると思います。
-そういうところからプロへの道を開拓されているんですね。海瀬さんの一日のスケジュールはどんな感じなんですか?
海瀬 家にいる場合は、練習してご飯食べて練習して、っていう感じですね。出かける時は出かけますけど。特別なことはしていないです(笑)。
-お友達は、現地の方が多いんですか?
海瀬 どうしても日本人の方が多いですね。外国人のお友達は少ないです。少しだけ韓国の友達がいますけど。
-韓国の人だと、ドイツ語を練習し合えますしね。
海瀬 はい。お互い同じようなテンポなので(笑)。
-ベルリン芸大は、留学生も多いんですか?
海瀬 すごく多いです。私の周りで、ドイツ人ってあまりいないんじゃないでしょうか。アジア人がたくさんいます。特に日本人と韓国人。学校全体でもそうだと思います。
-海瀬さんのところの門下では、どんな比率ですか?
海瀬 日本、韓国、ロシア、アイルランド人などですかね。西洋人が3~4人くらい、5~6人がアジア人という感じです。
-でもドイツ語が必要なんですよね。
海瀬 守衛さんや事務局の人は全員ドイツ人なので。そういう方々とのやりとりも必要ですからね。
-日本人以外の国の人とうまく付き合うコツはありますか?
海瀬 私は、外国人の知り合いが少ないので・・・。積極的に話しかけたり、輪に加わっていくというのは大事なんじゃないでしょうか。
-そうですよね。やはり話題は音楽のことですか?
海瀬 他愛もない話ですね、芸能ニュースやサッカーの話など、共通の話題を見つけて話しています。
-住む場所も、自分で探されたんですか?
海瀬 たまたま先輩が同じところに住んでいらして、そこが空いているよと紹介していただいたんです。
-ラッキーでしたね。
海瀬 そうですね。その先輩は、前から知り合いだったのではないんですが、受験前に先生に会いに行ったとき、レッスンの時間が、たまたま前後してたんです。そのとき、「あ、この人日本人だ!」と思って、レッスンが終わるのを待ち構えて話を聞いたんです。そしたら、同じアパートの部屋が空いていると言うことで、大家さんにお話してもらうようにお願いしたんです。
-自分から話しかけたことによって見つけられたんですね。
海瀬 気になることがあったらどんどん聞いて、スパッと決めていかないと。特に住宅は、みんながいい所を探していますからね。
-悩んでいる暇があったら行動しないとって感じですね。大変な部分もあるかと思いますが、留学して良かったと思う瞬間はどんな時ですか?
海瀬 言葉が分からなくてストレス感じたり、レッスンで自分にない部分を指摘されて悔しく思う時こそ、留学している醍醐味を感じますね。ベルリンには世界でも超一流のオーケストラやオペラがあります。そこに良く足を運ぶのですが、そういった一流のものに間近で触れられた時なども、留学して良かったと思う瞬間ですね。
-そこで自分が変わったなとか、成長したなって思うのでしょうか?
海瀬 自分ではまだよく分からないですけど・・・。でも、日本に帰ったとき、先生に久々に聞いていただいたりして、「変わったね」とか「良くなったね」みたいに言ってもらえると嬉しいですね。
-こんなこと知らなかった、とかいう発見はありますか?
海瀬 ありますね。私はとにかく音色の種類を増やしたいと思って来たので、そういう面で、先生も細かく指摘してくださいますから、新しい発見はたくさんあります。
-それをどんどん習得している最中なんですね。
海瀬 毎回毎回、同じようなことを言われてしまうので、成長してないなってがっかりするときも多いですけどね。くじけそうになりますけど、ここで諦めるわけにはいかないっていう気持ちで頑張っています。
-前向きに考えられて素晴らしいです。ベルリン芸大なんてなかなか入れない学校ですし。海瀬さんが受けられたときは、どのくらい受験者がいてどのくらい合格されたんですか?
海瀬 130人くらい受験して、5~6人ですね。前に受験していて、入学時期をずらしてくる人もいるんですけど、その人たちを入れても10人くらいでしたから。
-試験官はどのくらいいらしたんですか?
海瀬 1次試験は午前午後に分かれていて、それぞれに分かれて先生がいるんですけど、2次試験は全教授が来ていましたね。
-それは緊張しますね!
海瀬 でも、フレンドリーな感じでしたよ。それよりも、ベルリン芸大の試験は、すごく大きなホールであったのですが、響きがかなりないところなんです。だから慣れていないと大変ですね。先生方は和やかでしたけど、ホールに対して緊張しました。
-今は2年生ということですが、卒業されてからの進路はどうお考えですか。
海瀬 私は最終的に日本に帰って、日本で音楽活動をしていきたいと考えています。
-プロのピアニストを目指されるんですね。
海瀬 なれるかなれないかは別ですけど。あとは、教えたりして音楽で生きていけたらと思います。
-音楽教授を目指したいとかはありますか?
海瀬 もし、そういったチャンスがあれば、ですね。
-最後に、これから留学する人にむけてのアドバイスを。
海瀬 今は、ある程度のお金さえあれば、音楽的なレベルに関係なく比較的誰でもが留学しやすくなり、インターネットで簡単にどこでもつながれる時代だと思います。飛行機で簡単に日本と行き来も出来ます。街中には日本人もたくさんいて、日本のものも簡単に手に入ります。一昔前の先輩方が留学していた時の苦労を思うと全く状況は違うと思うので、なぜ自分は留学するのかということを、心に決めてから来た方がいいと思います。まずは「行ってみたい、見てみたい」という好奇心があることが大前提だと思うのですが、今の時代でしたら、何かしら自覚を持っていかないとブレてしまうと思うんです。ある程度、留学に対する大きな目標を持つというか、自分は最終的にどうなっていたいのか、というのを考えてくるのも大事だと思いますね。人によってはとりあえず来てから考える、というのも良いのでは、という方もいらっしゃいますが。現在はどこに行っても留学生もたくさんいて、私の周りで、とりあえず来たけど、語学も出来ずにどうしていいか分からないという人もいて、そういう人はトラブルに巻き込まれたりしています。ですから、自分の中に一本考えを持ってきたほうがいいと私は思います。
-しっかりした意思を持っていないと、せっかくの留学を活かせないということですね。
今日は、参考になるお話をたくさんお聞かせ下さって、本当にありがとうございました!
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海瀬京子ピアノリサイタル
開演: 2010年10月8日(金) 19時...(18時30分開場)
入場料金: 3,500円
会場: トッパンホール 112-8531 文京区水道1-3-3 tel:03-5840-2200
主催・お問い合わせ: カノン工房 このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。