庭野聡子さん/ピアノ/ウィーン国際音楽ゼミナール /オーストリア・ウィーン
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
庭野聡子さんプロフィール
2006年武蔵野音楽大学器楽学科ピアノ専攻卒業。2008年武蔵野音楽大学大学院音楽研究科ピアノ専攻修了。ピアノを黒川文子、前原信子、E・アシュケナージの各氏に、ピアノ・デュオをK・ガネフ、J・ガネヴァの両氏に、室内楽をS・ナジ氏、C・ドル氏の両氏に師事。2008年ウィーン国際音楽ゼミナールに参加。
- 今まで講習会などに参加したことはありますか?海外に行かれたことはありますか?
庭野 国内での講習会は参加したことがあります。海外へは旅行などで渡航経験がありますが、ヨーロッパは初めてでした。
- この講習会に行きたいと思った理由やきっかけはなんでしょうか?
庭野 今年の春に大学院を修了し、試験などの都合に合わせる必要がなくなり、自分のペースで勉強できるようになりましたが、仕事との兼ね合いがあり、練習に充分な時間をとることが難しくなりました。何か明確な目標に向かって勉強したいと考え、夏に海外で講習を受けることを決めました。また、恩師が20代にウィーンで勉強され、私が子どもの頃からそのご経験をお話してくださったので、ウィーンはずっと憧れの場所でした。
- 参加者は、どのくらいの人数がいましたか?また、どんな人が参加していましたか?
庭野 正確な人数は分かりませんが、ピアノは20人程度、全体で50〜60人くらい参加していたと思います。日本人や韓国人が多く、半分以上を占めていました。高校生、大学生、社会人と幅広い年代の受講生がいました。
- 講習会はどんなスケジュールが組まれていましたか?
庭野 スケジュールは下記のような感じでした。教授によってレッスン時間や回数は異なりますが、私は期間中に70分〜80分のレッスンを4回受講することができました。毎日、各教授によるレッスンが行われているので、ピアノや声楽などの聴講に行きました。
7月28日 9:00 各クラスのオリエンテーション(大学内)
19:30 オープニングコンサート(ベーゼンドルファーザール)
7月30日 19:30 教授陣コンサート(ベーゼンドルファーザール)
8月 7日 13:00 ディヒラー・コンクール(大学内)
18:30 受講生コンサート(大学内)
8月 8日 19:30 コンクール受賞者コンサート(ベーゼンドルファーザール)
8月10日 10:30 受講生コンサート(ハイリゲンクロイツ)
- ウォルフガング・ヴァッツィンガー先生はどんな人でしたか?
庭野 先生は非常に知的で穏やかな方でした。ピアノの技術のみならず、常に音楽に対して真摯な姿勢に感動しました。
- レッスンでは、どんなことを教わりましたか?教わったことで、印象に残っていることはありますか?
庭野 初回のレッスンで一度弾き終わった後に「あなたがまだ満足していないことは何ですか?」と聞いてくださったので、今回の講習会で勉強したいと思っていた響きの問題について直接伺うことができました。また、楽曲の背景や作曲家の心理などについて、ドイツ人の先生からお聞きできたことは、ドイツ音楽を勉強する上でとても有意義でした。テクニック的な面でも、些細な部分についての質問も丁寧に解決してくださいました。
- レッスンは何語で受けましたか?通訳をつけてのレッスンはいかがでしたか?
庭野 レッスンはドイツ語でした。通訳の先生はタイムロスのないよう、配慮してくださいましたが、やはり語学力をつけたいと強く感じました。レッスン以外では英語で個人的なご相談をさせていただきました。
- 練習はどこでしたのですか?どのくらい練習出来ましたか?
庭野 ピアノに限っては、一日の練習はホテル内の練習室(3部屋)で90分、大学内の練習室(5部屋)で90分を予約できました。土日はホテルでの90分のみです。ホテル内の2部屋以外はアップライトピアノでしたし、ホテルのピアノは調律されていないので、環境が充分とはいえないと思いました。
- レッスン以外の時間は何をしていましたか?
庭野 自分のクラスや他の教授のレッスンを聴講させていただきました。ピアノのレッスンも非常に勉強になりましたが、特にリート解釈のレッスンの聴講は興味深く、新たな勉強への意欲がわきました。ほとんどのクラスがお昼過ぎには終了するため、その後はウィーンの街中に遊びに出かけていました。
- ウィーンの街はいかがでしたか?
庭野 大学から見える薄ピンク色の建物がかわいらしいと思って近づいたら、ベートーヴェンが第9を書いた家だった、というように、街中至る所に歴史が息づいていました。ホームレスの人からお金をくださいと言われたり、コンサートのチケットをしつこく売ろうとする人には出会いましたが、予想していたほど、治安は悪くないように感じました。ウィーンの人は独特のプライドがあると聞きましたが、学生と思われるせいか、どこに行っても驚くほど親切にしていただきました。
- どこか遊びに行ったところはありますか?
庭野 ウィーンの中心部であるシュテファン大聖堂や周辺のリンク内は毎日のようにお散歩やお買い物に行きました。範囲は狭いですが、見所があちこちにあり、何度行っても飽きませんでした。レッスンがない土日には、少し足を伸ばしてベートーヴェンの夏の家があるハイリゲンシュタット、音楽家たちのお墓がある中央墓地、シェーンブルン宮殿でのオペレッタ鑑賞などに出かけました。さらに足を伸ばし、世界遺産であるメルクからデュルンシュタインまでのヴァッハウ渓谷で青きドナウを見ることもできました。講習会終了後にはザルツブルグへ旅行に行き、音楽祭と湖水地方を堪能しました。
- 宿泊先はどこに泊まりましたか?対応はどうでしたか?
庭野 ローゼンホテルに宿泊しました。フロントでは英語も通じました。ほとんどが受講生で日本人が多いので安心感はありました。朝食はビュッフェスタイルですが、あまり満足のいく内容ではありませんでした。
- 宿泊先と講習会場はどのように移動しましたか?
庭野 最寄り駅からトラムに乗って20分ほどでした。歩ける距離のようですが、期間中は暑かったのでトラムの利用が便利でした。1週間定期が14ユーロでした。
- ごはんは何を食べましたか?外食は、どのくらいのお値段でしたか?
庭野 ウィーンでしか食べられないものを、とウィーナーシュニッツェルは数回食べました。たいてい10ユーロ前後だと思います。観光客の多いお店は少し割高です。簡単な昼食には、トルコ料理のケバブサンドウィッチは重宝でした。3ユーロで顔と同じくらいの大きさのパンに野菜とお肉がどっさり入って出されます。お肉料理が多いので、「ノルトゼー」という魚介のお店もよく行きました。これも3〜5ユーロ程度です。ほかにマクドナルドなどもありますが、日本での価格を考えると高く感じます。
- 海外の人達とうまく付き合うコツはありましたか?
庭野 受講生同士は音楽という共通点があるので、すぐに打ち解けることができました。また地元の人たちも音楽を勉強しに来たというと、とても好意的でした。語学ができなくても、郷に入っては郷に従え、で、きちんと挨拶を交わす習慣は守ることが最初のルールではないかと思いました。
- 留学中に、困ったことなどはありますか?
庭野 ウィーンの街中では英語が通じますし、講習会中は日本人スタッフもいらっしゃるので安心して生活することができました。レッスンなどでも日本とかけ離れたことはなかったように思います。ただ、ほとんどのスーパーマーケットやお店が日曜日は休むこと、休前日は早くお店仕舞いをしてしまうことが、コンビニだらけの日本に慣れていると不便に感じました。
- 今回講習会に参加して良かったと思える瞬間はありましたか?
庭野 今後もヴァッチンガー先生の来日の際などにレッスンを受ける機会がもてるよう、お願いできたことです。また、2週間という長い滞在で外国生活の体験もとても貴重でした。
- 留学して、何か自分が変わったなとか成長したなと思う事はありますか?
庭野 日本ではまずは練習を優先させ、一日の大半をピアノの前で過ごすこともありますが、練習時間が限られていたために、少ない時間の中で効率よく練習し、たくさんの場所に出かけ、目で見て耳で聞いて心で感じる体験は、直接演奏に結びつけることは難しいですが、自分自身の糧になったと思います。
- 日本と留学先で大きく違う点を教えてください。
庭野 現在の日本での指導者はほとんど留学経験がありますし、多くの外国人教授が日本での指導にあたっているので、レッスンにおいてまったく異なった新しい方法がとられているというわけではないように思います。しかし、クラスや楽器にこだわらず、自由に聴講することができる環境は、大変刺激的で、勉強になりました。また、街やトラムの中で楽譜を抱えていると、地元の人が気軽に声をかけ、励ましてくれました。クラシック音楽が身近で、自分たちの誇りと感じているように思いました。
- 今後留学する人にアドバイスしておきたいことなどありますか?
庭野 自分自身の反省でもありますが、レッスンでの楽曲はある程度仕上がったものと新しいものを組み合わせるなどの準備が必要と思いました。また、通訳がいるとはいえ、やはり語学力もある程度身につけていくことが大切だと思います。
- 留学前にしっかりやっておいた方がいい事は何かありますか?
庭野 レッスンや語学については前の質問の通りです。気候などの日本で得られる現地情報は、できるだけ活用しておくべきだと思いますが、やはり現地に行ってみなければわからないことも多かったです。
- 今後の活動は?進路などありましたら教えてください。
庭野 現在は指導と演奏の仕事を両立しています。演奏の仕事では、楽曲が指定される場合が多いのですが、将来は自分のレパートリーをまとめて発表できる機会がもてるように勉強を続けていきたいと思います。
音楽留学アンドビジョン【ドイツ特集! vol.408. 2016-03-08 04:00:00】
Y.Tさん・藤井尚子さん/ピアノ/ベネチア音楽院サルヴァトーレ・スパノ教授・アンドビジョン特別プログラム/イタリア・ベネチア
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
Y.Tさんプロフィール
3歳よりヤマハ音楽教室でピアノ・エレクトーン・ソルフェージュを始める。小学4年時に専門コース修了。その後、中学校から、大学付属の音楽教室にてピアノ実技・音楽理論を学び、音楽高校・大学進学。卒業後は、レストランや施設での演奏活動の他、音楽教室で子供から大人までのピアノ指導にあたっている。2010年9月ベネチア音楽院サルヴァトーレ・スパノ教授の講習を受講。
藤井尚子さんプロフィール
3歳よりヤマハ音楽教室に入会。6歳よりピアノを始める。現在、音楽大学4年。2010年9月ベネチア音楽院サルヴァトーレ・スパノ教授の講習を受講。
-まずは、おふたりの簡単なご経歴を教えてください。
藤井 正式にピアノを始めたのは6歳からです。その前にヤマハの幼児クラスに通っていました。そして、小学校1年生の時に、今の学校の音楽教室に通い始めて、高校から今の大学の音楽高校に入りました。
Y.T 私も、4歳になる少し前にヤマハの幼児科に入り、ジュニア科を経て、専門コースで週に2回、個人とグループでエレクトーンなどを習っていました。中学受験で一時やめていたんですけど、中学校に入り、その後大学卒業までお世話になった先生に師事し、ずっとその先生についてピアノをやっていました。
-今まで、講習会などで、海外の先生について習った経験はありましたか?
藤井&Y.T 今回が初めてでした。
-今回参加を決断されたとき、一番大きな決め手は何だったんですか?
藤井 ホームページに先生がオープンで・・・ということが書いてあったのが大きかったです。
Y.T 私もそうかもしれないですね。あと、私はもともとイタリアが好きで、何度もイタリアに行ってるんです。観光や語学留学で。それで、どうせもう一回行くなら、ピアノもやりたいな、と。
-先生はどんな方でしたか?
藤井 想像以上に優しくて親切な方でした。いつも笑顔で。
Y.T とても面倒見が良い方でした。「コンクールでも試験でもないんだから、緊張しなくていいよ。」とか、「僕たちは、ここではひとつのファミリアなんだから。」って何度もおっしゃっていました。なので、最初は緊張しましたけど、すぐ慣れました。みんな一緒になって笑って、すごくいい雰囲気でしたね。
-日本の先生とは違いますか?
藤井 違うなと感じました。本当にエネルギッシュでよく歌って下さって、一緒に楽しんで音楽を奏でているという感じがしました。
-今回はもう一人の男性の方と、たまたま同じ時期に同じ先生のレッスンを受講することになったんですよね?他の方のレッスンを聴講していかがでしたか?
藤井 すごく勉強になりました。先生のレッスンを受けている時、自分自身のことよりも二人の演奏がどんどん変わっていくのがすごくよく分かって、ああ、すごいなって感動しました。
Y.T 私もいろんな意味で勉強になりました。この3人が集まったことは、とてもラッキーだったなって思います。最初は、自信がなかったので、見られるのは恥ずかしいって思っていたんですけど・・・。何より、先生が一人2時間くらいずつレッスンしてくださったんですよ。いつも時間をオーバーして、熱心に指導してくださいました。私たちも早めに行っていたんですけど、先生はもっと早くにいらしていて、予定時間よりかなり早くからレッスンは始まり、終わる時間はオーバーしていたという感じで・・・(笑)休憩なんて、5分10分でしたから、先生も相当ハードだったと思いますけどね。それでも毎日付き合ってくださいました。3人が持っていったレッスン曲以外にも、「それで言うなら、これも一緒だよね。」って、例になる曲を弾いてくれたりとか、どんどん広がっていくような感覚でした。
-雰囲気が伝わってきますね。レッスンはイタリア語でしたか?通訳さんはいらしたんですか?
Y.T 通訳はいませんでした。イタリア語のレッスンです。先生も、ちゃんと伝わっているかどうか確認しながらっていう感じでしたね。
藤井 二人はすごく話せるんですよ。私一人、ぜんぜん出来なかったので、ほとんど訳してもらっていました。
Y.T 自分から話すのは難しいですけど、先生がすごくゆっくり分かりやすく話してくれたんですよ。身振り手ぶりも交えて演技してくれたり。だから、先生がおっしゃっている事は、ほとんど理解できたんですけど、自分から話すことが出来なかったので、もっと勉強しないとなって思いました。
-Y.Tさんは、イタリア語はどのくらい勉強されたんですか?
Y.T 大学生の頃、3年間くらいですね。あとは、語学の短期留学で4週間のホームステイを2回しました。
-では、藤井さんとしては心強かったですね。
藤井 はい。本当に。
Y.T でも、音楽用語はイタリア語が多いので、分かりやすいって言えば分かりやすいですよね。それに、言葉が分からなくても、レッスン中は先生が聞かせてくれたり、歌ってくれたりしたので理解できると思います。先生は、一人何役も演技してくれたりするんですよ(笑)。
-練習時間は、思う存分取れましたか?
藤井 個人的にはもう少し練習できたら嬉しかったです。でも、どの講習会も大体、練習できるのは3時間くらいだと思うので、これが普通だと思います。練習環境はとてもよかったです。
-街の雰囲気はどんな感じでしたか?日本人はいるんですか?
Y.T すごく良かったですよ。素敵でした。街の人もみんな親切な人ばかりでしたし。日本人は、観光客でたまにいましたけど、そんなにいませんね。
藤井 面倒見がいい人が多い気がします。イタリアの人って。
-レッスン以外でも、やはり語学が出来るといいですよね。
Y.T そうですね。レッスン以外のところでも、いろいろ吸収できたのも良かったです。あの雰囲気や空気の中でピアノを弾くだけでも違うと思いますよ。
-宿泊先はホテルですか?
藤井 B&Bでした。お部屋のインテリアも素敵で、オーナーの方もとても親切で優しい方でした。
-もしもう一度機会があったら、参加したいですか?
藤井&Y.T 行きたいです!
-また同じイタリアに?
Y.T 他の国ににも行きたいですけど、やっぱり、同じ先生に会いたいですよね。コンサートとかあったら、絶対行きたいです。先生は世界中にたくさんお弟子さんがいらっしゃるから、覚えていてくださるかは分かりませんが、再会したら、「お父さん、久しぶりー!」って抱きついていけるような雰囲気を持った方なので。
-今日は、貴重なお話をたくさん聞かせていただいて、ありがとうございました!
音楽留学アンドビジョン【夏期講習会に参加しよう! vol.413. 2016-04-12 04:00:00】
藤木沙織さん/ハープ/フランツ・リスト音楽大学夏期マスタークラス/ドイツ・ワイマール
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
藤木沙織子さんプロフィール
10歳よりハープを始める。洗足学園音楽大学を2008年3月に卒業。2008年ワイマール・フランツリスト音楽大学夏期マスタークラスに参加マリア・グラフに師事。
-はじめに簡単な自己紹介をお願いします。
藤木 母の手ほどきで10歳くらいからハープに触れました。本格的に始めたのは16歳のときです。それから先生に習い始め、洗足学園音楽大学に入学、こないだ(2008年)の春卒業しました。
-今までに講習会に参加されたことはありますか?
藤木 いえ、今回が初めてです。
-海外に行かれたことはありますか?
藤木 大学の演奏旅行や個人旅行で行ったことがあります。ドイツは今回で4回目です。
-今回ドイツの講習会に参加されようと思ったきっかけは何ですか?
藤木 マリア・グラフ先生の講習会を探していて、たまたまワイマールでやっていたので参加しました。
-マリア・グラフ先生に習ったことはあったのですか?
藤木 いえ、ないです。でも、ドイツで一番弾ける先生だと思っているので、是非ついてみたいと思っていました。
-実際にレッスンを受けてみていかがでしたか?
藤木 もう圧巻でした。全然、裏切られなかったし、すごくいい先生だし、よかったですね。典型的なドイツ人で、元気のいいおばちゃんといった印象です。声が大きくて、明るい先生でしたね。すごく元気がいい方でした。
-そんな先生の音楽観はいかがでしたか?
藤木 とても音楽的でした。曲も全部お手本を聴かせてくれる先生なので「すごい!」と感動の連続でした。中には弾かない先生もいるんですけど、マリア先生は「こうするんだよ」と全部弾いてくれましたね。
-テクニックはどうでしたか?
藤木 やはりすごかったですね。自分がこれまで日本で習っていたこととは違うところは多々あったんですが、ハープはヨーロッパで生まれたものなので、ドイツ人が弾くハープはいいなと思いました。
-今までに先生の演奏を聴かれたことは?
藤木 ずっとCDで聴いていたので、初めて生で聴くことができて感動しました。
-講習会の参加者は何名でしたか?
藤木 ハープ科は11名です。8人がドイツの子で、1人スイスの子がいて、あとは日本人2人でした。
-どんなスケジュールだったんですか?
藤木 初日は、午前中にオーディションがあって、夕方からグループレッスンでした。先生がスケールや基礎練の課題を出して、それを一人ずつ公開レッスンで弾くようなかたちでした。翌日から、個人レッスンが始まって、3〜4日のうちに50分レッスンが2回組まれました。個人レッスンの他には、たまにグループレッスンが入ってくる感じでした。
-オーディションはどんなものでしたか?
藤木 名前を言われて、みんなの前で弾きました。緊張しましたね。
-ほかの受講者の実力はいかがでしたか?
藤木 自分がいつか弾きたいと思っていたコンチェルトを平気で持ってきていたので、すごく焦ったし、なんか場違いなんじゃないかと思いました(笑)。みんなすごく上手でした。
-他の受講者の年齢はどのくらいの方だったんですか?
藤木 一番下の子は、大学生で二十歳くらい。一番上は、30ちょっと過ぎのでした。他にもプロオケの空き待ちの子もいて、年齢層は思っていたよりも高かったです。
-レッスンはどういうふうに進みましたか?
藤木 オーディションで弾いた曲を見せたら「ちょっとここ気になったから弾いてみて」と言われたので、まず先生の気になるところを全部見てもらいました。その次に、自分が見てもらいたくて持っていった曲を見てもらいました。
-教わったことで印象に残っていることを教えてください。
藤木 「あなたは体が小さいから、こう弾いたらいいんじゃない」など、日本の先生にはない発想で楽器を使うことです。あとはハープの独特な奏法で、ドイツ人が好む弾き方を教えてくれました。私が日本で習っている先生はフランスで勉強された方なので、ちょっと弾き方が違いました。わりとテクニック的な部分が多かったと思います。
-レッスンは何語で受けられたのですか?
藤木 英語とドイツ語です。ドイツ語を勉強していったので、8割はドイツ語でした。ちょっとわからない単語は英語を使っていました。こうしたいああしたいってのはドイツ語で話せるのですが、英語のほうが覚えている単語が多いので単語は英語で、といった感じでした。
-いつもとは違う日本語ではないレッスンはいかがでしたか?
藤木 わけがわかんなかったです(笑)。でも、音楽用語はドイツ語やイタリア語で世界共通なので、そのあたりはわかりました。
-スケジュールの中にレッスンの他にオーケストラがあったと思うのですが、いかがでしたか?
藤木 私たちは聴講だったんですが、隣の町のプロのオーケストラの人に協力してもらって、そのクラスから4人、コンチェルトをそのオーケストラで弾かしてもらっていました。ハープのコンチェルトなんですけど、ドビュッシーのダンスとヘンデルのコンチェルト、モーツァルトのコンチェルトあとはオケの人たちが探して来てくれたコンチェルト系の曲を演奏していました。
-これまでにコンチェルトを聴く機会はありましたか?
藤木 けっこうありました。ハープのコンチェルトはもともと数が少ないので、限られているんです。例えばモーツァルトのフルート・ハープのコンチェルトなんかは有名ですし……。それで、いろいろな先生のコンチェルトを聴いたことはあるし、いつか自分も弾きたいと思っていましたし……、でも、やっぱり同じ世代の子が弾いているのを見て、ショックというかなんというか、すごいんだなぁ……と思いました。
-オーケストラ・スタディー中先生はどうしていたんですか?
藤木 先生はすごく口出ししてましたね(笑)。指揮の人も止めていないのに勝手に止めて、こうしなさい、ああしなさい、と。
-勉強になりましたか?
藤木 そうですね。私の知らない奏法で弾いていて、こう弾くんだ、ああ弾くんだ、という発見もたくさんありました。
-レッスンや聴講で驚いたことはありますか?
藤木 聴講していたレッスンで、生徒と先生が喧嘩をしていて、何で怒っているのかわからなかったんですけど、先生が怒って出て行ってしまったことがありました。弾き方にくい違いがあって、先生が怒ってしまったのか、その子が素直に聞かなかったのかなぁ、と。見ていると、ヨーロッパ人って、自己主張が強いんですよね。先生が「こうして弾きなさい」と言っても、「いや、私は腕が長いから、こうしか弾けないんです」と返したり……。そんなやり取りをするので、聞いていてびっくりですよ。私は先生に言われたら、「そうですね」って自分の中で消化して、弾くと思うんですが、向こうの人は、私はこうだから、というのが強いと思いました。日本人のような謙虚なところがないので、順番待ちで順番にいらっしゃいと言われても、どんどん出て行かないと最後まで残ってしまうんです。そういうヨーロッパ人と日本人の違いを感じました。
-そんな中で、今後やっていけそうですか?
藤木 自分も強くならないとダメだなと思いましたね(笑)。でも、みんな話をするとすごくいい人たちだし、ちょっと話すようになると、挨拶をしてくれたりするので楽しかったですね。
-そんな海外の方とうまく付き合っていくコツはありますか?
藤木 みんなとても音楽が大好きで、ちょっとお酒が入った席でも、作曲者の話をしていたり、音楽に熱いんですよね。すごく好きなのが伝わってきて、自分も半端な気持ちじゃできないなと思いました。言葉の壁はあったのですが、そういう気持ちは世界共通なので、海外の人とも仲良くできると思いました。
-なるほど。
藤木 言葉がわからなくても、作曲者の名前が出てくれば、何の話をしているのかくらいはわかりました。いろんなハーピストの弾き方の真似をしてみんなで笑ったり、「あいつはこんなハーピストだ」とか、私が知らないことをみんなが知っていて、おもしろかったです。あとは、普通に女の子の話(笑)、「彼氏いるの」とか、「彼氏どこに住んでるの?」とかそんな話をしました。
-どこでそんな話をしたんですか?
藤木 受講者のうち3人が、先生と一緒にベルリンから来た同じ大学の子たちなんです。だからもともと友達だったようで、1人誕生日の子がいて、「誕生日会やるから今夜来ない?」とか、生徒同士で一回飲みにも行ったし、レッスンの後に先生がクラスのみんなとジェラートを食べに連れて行ってくれたり、向こうの子たちが気を使ってくれたのかもしれませんが、「あの子たちも誘おう」みたいなのがあって、言葉の壁はありましたが、とても楽しかったですね。
-練習はどこでされていたんですか?
藤木 レッスン室のほかに、練習室が2部屋あって、ハープが1台ずつ置いてあったので、そこを使いました。ただ、11人受講生がいて、何時から何時までは誰が練習するといった打ち合わせが一切なかったので、みんなのいない時間を見計らって練習していました。練習塔が朝7時半から使えたので、朝早く起きて、8時からレッスンが始まる10時まで練習したり、お昼過ぎは、ヨーロッパの人たちはお昼寝をしたり休憩を長く取るんですよね、なので、そういう時間を狙っていました。でも、他の人とかぶってしまったら、「あと何分練習したいんだけど……」と伝えて、うまくやっていましたね。
-譲り合って使う感じですか?
藤木 そうですね。もっと強引に「私、使うから」と言われると思ったんですけど、意外と譲り合うところがあって、「もうちょっといい?」って言うと、「いいよ」って言ってくれました。でも、そもそも、他のみんなはあまり練習をしていませんでしたね。もっと練習しないのかな、とは思いましたけど、どちらかというと、先生の授業を聴くという目的で来ているので、しっかり聴講していました。こっちは練習もしないと、とがむしゃらだったので、なるべく朝に練習するようにしていました。
-朝は他の受講生は来ないんですか?
藤木 来ません。授業もヨーロッパ人はギリギリに来るんですよ。10時のレッスンだと、10時のレッスンの子は来るんですけど、聴講の子たちがレッスン室に入ってくるのは10時半とか11時とか、まちまちでした。聴講は出入りも自由だったのですが、だいたい遅かったです。朝が強いのは、やっぱり日本人かなと(笑)。
-藤木さんは昼寝はしなかったんですか?
藤木 最初は時差ボケもあったので、昼寝をしていました。レッスン中に眠くなるのが一番辛いし、せっかく参加しているのにもったいないと思ったので。朝は時差ボケのせいで、6時くらいにはパッと目が覚める。午前中のレッスンを聴講したら、午後の休みが3時間くらいあるので、一度ホテルに帰って1時間寝て、また午後のレッスンに出かけるっていう生活をしてました。
-なんだかヨーロッパ的な時間の流れですね。
藤木 そうですね。日本では、昼寝なんか絶対しないじゃないですか。ゆとりがあるんだなと思いました。
-レッスンと練習以外の時間は何をされていましたか?
藤木 本当に時間がつめつめだったので、お昼にちょっと街に出て、ご飯を買って食べたり、スーパーマーケットに寄り道して帰ったりしたくらいです。ワイマールという街も歴史があるので、観光もしたかったのですが、そんな時間はなかったですね。最終日は午前中で終わったので、午後はバスで街を一周しようと思っていたのですが、案外何もなかったので、余った時間は荷作りをして終わりました。
-ワイマールのほかの街に観光はされましたか?
藤木 フランクフルトとハイデルベルク、ケルンに日帰りで新幹線を乗り継いで行きました。ハイデルベルクは1度行ったことがあって、ワイマールからはちょっと遠いし、新幹線代も高いので、どうしようかなって思っていたんですけど、行かないと後悔するかなと思って行ってきました。街をウロウロして景色を見てきました。すごく景色がきれいなところなんです。
-新幹線は現地に行ってから切符を取ったんですか?
藤木 はい。自販機だとわからないので、直接窓口に行って「ハイデルベルクまで往復切符下さい」って。時刻表をよく調べて、電子辞書を片手に(笑)。
-電子辞書はやはり必要ですか?
藤木 常に持ち歩きました。簡単な会話帳と電子辞書と自分なりに考えた使えそうな単語のリストは持ち歩いていました。
-ホテルはどうでしたか?
藤木 よかったですよ。日当たりもいいし、特に不満はなかったです。結構大きい系列のお店で、設備もよかったですね。
-ご飯はどうしていましたか?
藤木 ホテルに食事が付いていないプランだったので、パンやハム、チーズ、バター、サラダを買って、ホテルの冷蔵庫に入れて、朝はそれを食べました。お昼も作って持って行って、学校で食べました。あとは、温かいものが食べたいときは、自分が日本から持っていったカップラーメンを食べたり、スーパーでカップラーメンを買って食べました。
-お値段はいくらくらいでしたか?
藤木 サラダが1パック1ユーロちょっとくらいです。ハムは1ユーロか2ユーロでした。バターなどは5日間くらい使いまわしていたので、1食2ユーロかかっていないと思います。そんなに外食をしなければ、生活できると思います。日本食が恋しくなければ生活には困らない感じでしたね。
-外食はしなかったんですか?
藤木 1回だけしました。日本でいうファーストフードみたいで、鮭などのお魚が美味しいお店でした。レジで「これとこれ」って言うと、お皿に盛ってくれて、だいたい10ユーロくらいでした。それに飲み物をつけると、やっぱり高いなと思って、外食は1回きりでした。
-持って行ったほうがいいものはありますか?
藤木 シリアルのような乾燥している食べ物をよく朝食べるので、1箱持ってっていきました。あとは、部屋で食べるなら、スプーンやフォークは持って行ったほうがいいですね。サランラップ、アルミホイル、ポカリの粉とか日本茶、水筒とかもあるといいかと思います。
-ワイマールで暮らしていくと考えるとどうですか?
藤木 街のつくりを覚えて、スーパーマーケットの使い方覚えれば、暮らすのには困らないですね。歩いてみて、郵便局や銀行やデパートの位置を覚えれば、大丈夫だと思いました。
-住みやすい街ですか?
藤木 過ごしやすそうですね。ただ、昔ドイツが東と西に分かれる前の境の町は治安もそんなによくないから一人で出歩かないように、と、いろんな人に言われたんです。実際に行ってみると、街灯がないので日が暮れると真っ暗なんです。だから、ちょっと怖いなと思いました。
-夜、歩くことはありましたか?
藤木 友達の誕生会で、遅くなったときにバスがなくなってしまったのでホテルまで歩いて帰りました。遅くといっても10時解散くらいで、スイスの子もホテルに泊まっていたので日本人の子と3人でした。ホテルまで15分歩くんですけど、街灯も何もなくて道路脇の家の電灯やたまに通る車のライトくらいしか明かりがなかったです。酔っ払っていたし、3人でワイワイ帰ったので、あまり怖くなかったですけど(笑)、一人だったら、やっぱり怖いですよね。
-移動はどうされていたんですか?
藤木 バスを使っていました。市内のバスカードがあって、普通に1回乗ると3ユーロ近くするので日本円にすると500円くらいしてしまって高いんですよね。なので、最初の日に3日間で10ユーロの切符を買って、あとは3日間で5ユーロずつでした。レッスンに行って、一回ホテルに帰って、休んでからまたレッスンに行くと1日2往復バスを使うので、元は取れました。でも、会場まで歩いている子もいましたよ。歩いても行けるんですけど、私たちはそこからさらに山を15分登らなければいけないので、大変なんです。一度私も歩いてみたのですが、レッスン室まで30分かかるんですよ。だからバスを使っていました。
-バスのつくりはどうでしたか?
藤木 あまり日本と変わりません。普通のバスがゴムのウネウネで2台つながっているやつなので、絶対に座れました。バスの運転手さんも優しかったですね。
-交流とかあったんですか?
藤木 「ハロー」とか「グーデンターク」とか。降りるときも、「チュース」と言うと、「チュース」って返してくれました(笑)。そうやって通じるだけで、あいさつって、楽しいですよね。
-街のみんさんもそんなふうに明るい感じですか?
藤木 そうですね。でも、観光地の中心みたいな感じだったので、観光客が多かったと思います。同じような日本人や中国人がいたので、あんまり街の人って分からなかったですね。街に住んでいる人は、たぶんもうちょっと違うところに住んでるのかなと思いました。あるいは、夏の休暇中なんで、みんな出て行ってしまったのかな。逆に街は静かでした。
-街のつくりはどうでしたか?
藤木 石畳がすごかったので、ミュールでは歩きづらかったです。ヒールのないパンプスは持っていったんですけど、半分森だったので、スニーカーを持ってくればよかったと後悔しました。街並みはいい街並みでしたね。ワイマールは戦争の空襲でやられたという話は聞かないんですけど、新しい建物もあって、同じように古い造りを並べて作ったりしていて、建物も古い造りを再現しているんじゃないかな、と思いました。ヨーロッパっぽいかんじで素敵でした。
-そういう風景を見ていかがでしたか?
藤木 ワイマールはリストが過ごした街なので、こういう景色を見て、こういう音楽ができるんだとか、そういったことをすごく感じました。だから、やっぱりヨーロッパの田舎っていいなと思いした。
-今回、講習会に参加してよかったなと思える瞬間はありましたか?
藤木 憧れていた先生の生演奏を聴いただけでも、もう帰ってもいいと思いました(笑)。先生は自分の中で本当にすごい人で、その先生の演奏を聴けるだけでも行く価値があると思って今回参加して、本当にその通りでした。自分の演奏でよくないところは自分でもわかっているし、先生も基礎練を見ているわけではないので、ある程度ちゃんと弾けなきゃいけないんです。でも、それはもう自分次第なんですよね。なので、他のヨーロッパの子の演奏を聴いたり、向こうの環境に触れたり、先生の演奏を聴けたことのほうが大きかったなと思います。すごくいい刺激になりました。
-今回の留学で成長したなと思うところはありますか?
藤木 ちゃんと基礎練をしようと思いました。基礎練のコピーをたくさんもらって、全然できない自分にびっくりしたんです。できると思って、やっていなかったんですよね。曲の練習ばかりになってしまっていたので、基礎に戻った感じがします。先生の言われたことを忘れずに、また頑張ろうと思いました。
-基礎ができないというのはどういうことですか?
藤木 音が小さい、ということをずっと言われました。「ほんと音小さいわよ、聞こえない」みたいな。日本だと言われたことがなかったので、自分の音量が普通だと思っていたんです。だから、スケール違うんだなぁと思って、見つめ直す機会になりました。
-日本とドイツの音楽面の違いは何か感じましたか?
藤木 ハープの方って日本でも少ないので、フランスやドイツ、アメリカで留学されている方も多く、全然文化の交流がないわけではなんです。私も先生のフランスの弾き方もわかるので、あんまりハープに関しては、音楽面の違いは感じませんでした。
-人の接し方では国の違いを感じましたか?
藤木 やっぱり、もっと自己主張しなきゃいけないなと思いました。あとは、ドイツに行って帰ってきて、日本人ってなんであんなにあいさつしないんだろうとか、親切じゃないんだろうと感じました。やはり文化の違いなんでしょうね。
-今後、留学を考えている方にアドバイスをお願いします。
藤木 私自身、語学をしっかりやっておかないと、とすごく思いましたね。先生とのコミュニケーションに限らず、現地まで行くにしても、いろんな人に道を聞かなければならなかったですし。向こうの人は、ほとんどの方が英語をしゃべれるので、英語はしっかりやっておけば困らないと思います。あとはその地域の語学もやっておけば、なおさらいいと思います。
-他にはありますか?
藤木 向こうの気候ですね。考えていたよりもすごく寒かったんですよ。それで、向こうでコートを買いました。日本と思って行っちゃいけないなと思いましたね。よく下調べをしておくといいと思います。
-体調を崩したりはしませんでしたか?
藤木 大丈夫でした。でも、薬は万全に持っていきましたね。風邪をひいたら、のどが痛かったら、お腹が痛かったら、とそういう薬は全部持って行きました。
-今後はどういう活動をされたいのですか?
藤木 ある程度、自分のやりたいことがわかったので、もうちょっと調べて、向こうの大学に行けたらと思っています。やっぱりドイツのあたりで勉強したいですね。
-応援しています。今日はありがとうございました。
音楽留学アンドビジョン【ウィーン春期予約受付中! vol.438. 2016-09-27 04:00:00】
西本夏生さん/ピアノ/カタルーニャ高等音楽院/スペイン・バルセロナ
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
西本夏生さんプロフィール
北海道富良野市出身。3歳よりピアノを始め、PTNAピアノコンペティションB1カテゴリー第2位 (2004)、PTNAピアノコンペティションDカテゴリー第1位 (2007)、横浜国際音楽コンクールにてスペイン音楽賞(2008)、ブレスト国際ピアノコンクール(フランス)にて第1等メダル(2011)など数々の賞を受賞。これまでにピアノを中村明美、宮澤功行、木内泰子、迫昭嘉、Pierre Reachの各氏に、室内楽を東誠三、有森博、上森祥平、Oriol Algueroの各氏に、音楽教育を山下薫子氏に師事。2009年〜2010年7月日本女子大学非常勤助手。現在、スペイン・カタルーニャ高等音楽院に在籍中。ソロ活動に加えて、ピアノデュオpiaNA(松本あすか&西本夏生)としても幅広く演奏活動を行っている。早稲田大学卒業。東京藝術大学大学院修了。
-まずは簡単な自己紹介をお願いします。
西本 ピアノを始めたのは3歳でした。それから高校生までしっかりピアノを弾き続けて、大学では一時ピアノからちょっと離れて心理学を専攻して、その後大学院から音楽教育とピアノを専門にし始めました。
-コンクールなどは小さい頃から出られていたんですか。
西本 そうですね。高校を卒業するまで結構色んなのに出ましたね。大学生の頃にも、私は学部時代には音大生ではなかったのですが、「コンクールには音大生が出られない部門っていうのもあるんだ!」ということを知って、色んな人に出会えて面白そうという気持ちで受けたりしていました。
-今回、留学をされたきっかけは?
西本 小さい頃から、漠然と留学したいなという気持ちはあったんです。子供の頃ずっと習いにいっていた先生の門下では、かなり多くの人が留学されていたので、子供心に憧れのような気持ちもありました。でも、どこか自分にとっては雲の上の話なような気もしていて。でも、芸大に入って夢中で音楽を学ぶうちに、それが自分の中でだんだん現実的なものになっていって、そうなってくると、そこからは実現に向けて動き出せたって感じです。スペインにピアノで留学される方ってあんまりいないですが、もともとスペインものがとても好きで、それを今後自分の主要レパートリーとして深めていきたいと思ったこと、それからピエール・レアク先生に出会えたこと全てがスペイン行きを決めたことのきっかけだったと思います。
-ほかの国は考えなかったんですか?
西本 最初はいろいろ考えたんですけどね。でも、スペインものを自分のものにしたいなぁという気持ちがあって。スペインの音楽って特徴があるので、やっぱりその土地に行って学べることが多いだろうなと思いました。それから、レアク先生はフランスでも教えられているんですが、フランスには年齢制限があって(笑)スペインの学校にはそれがなかったんです。そんなことも含めて色々とスムーズにいったので、スペインとは縁があるのかもなと思いました。
-スペインに行く前に、短期留学や海外旅行は経験されていたんですか?
西本 大学時代に、カナダに講習会に行ったりはしていました。実は留学を決めるまでスペインには行った事はなかったんです。でもきっと自分の気質には合うだろうという変な自信があって(笑)。一応、行こうと決めてから一度だけ下見に行きました。でも他の国に行く用事があったののついでだったので、滞在したのはほぼ1日という感じでした。それでもその1日の滞在で「やっぱりいい!」と思ったので、やっぱりスペインに行こうという気持ちは揺らがなかったのですが。
-実際行ってみて、想像と現実のギャップはありましたか?
西本 前回行ったときは夏で・・・それでギャップがあったのは、意外と冬が寒いってことですね。なんとなく、ずっと暖かいイメージだったので。もうここに数ヶ月住んでいますが、それでもなんか「燃えるような火と砂漠とフラメンコの大地!」というイメージは消えないですね。実際には、バルセロナは都会なので、そこら中で火柱が立っている、とかはないんですけどね(笑)
-現地の人々はどんな感じなんですか?
西本 陽気で人なつっこくて、明るいです。いつもぱーっとしている。よく笑い、よく怒り、よくしゃべる。でも、すごく誇り高くて優しい。そんな感じです。
-スペインに音楽留学をする人は少ないのですが、受験などはどのようなものですか?
西本 私の在籍しているコースは学部卒業後の研究科のようなコースで、現地に赴いての試験はありません。願書を出すときに、選考として自分の演奏をDVDで送る必要はあったのですが、現地に出向いて試験を受ける必要はなかったんです。その代わり、事前に先生とコンタクトを取れていないと選考を受けられない感じかもしれないですね。レアク先生は、その点すごく親切に面倒見てくださいました。私が先生と出会い、留学を決めたのは2009年の3月なんですけど、実際に渡航したのは、1年半経ってからの2010年9月なんです。でもその間も、ずっと先生とは連絡を取り合って、私もヨーロッパで開かれる先生の講習会などに参加したりしていました。
-試験など大変なことはなかったんですね。
西本 私は大学院を卒業しているので、この学部卒業後のコースに試験がなくても入学できたわけですが、学部から入ろうとするとちょっと大変みたいです。カタルーニャ州の公立の学校なので、受験の言語がカタルーニャ語なのと、それから聞いた話では、スペインで何年間かconservatorioに通っていたという事実がないと受験できないんだそうです。詳しくはわからないのですが。でも日本人で学部から入った方も今までにいらっしゃいますよ。
-西本さんのコースは、語学力は求められなかったんですね。では、手続きなどで、苦労されたことはありましたか?
西本 ビザを取るのが大変でしたね。ドイツなどと違って、先に住む家が決まっていたりしないとならないので、スペインのビザを取るのは結構大変です。あとは、HPも学校の掲示板もカタルーニャ語で書かれていたのが大変でした。手続きの時は、英語やスペイン語があるんですが、それほど親切ではないです。事務の方とのやりとりは、ほとんど英語でしたが、一斉送信で送られてくる時などは、カタルーニャ語のみで連絡がきたりしたこともあったので。
-そういうサイトをご覧になるときは、どうやって読んだのですか?
西本 ひたすらカタルーニャ語をスペイン語に変換して読みました。スペイン語は勉強していたので、なんとか。
-実際、留学の準備期間はどのくらいだったんですか?
西本 決めてから1年半くらいですね。でも、実際先生を探していた期間なんかも含めると、スペインに行こうと決めてからは2-3年はかかったように思います。私の場合は、全部一からだったので。
-他の学校は考えられたんですか?
西本 学校というよりも、先生で決めたかったので、そういう感じではなかったです。
-学校には、日本人の方はどのくらいいらっしゃるんですか?
西本 学生は、現在は私ともう一人コルネットを勉強している方がいます。あと、伴奏ピアニストで働いている方が一人いらっしゃるそうです。
-学校全体ではどのくらい生徒が在籍しているんですか?
西本 詳しい数は分かりませんが、クラシック系の楽器以外にも、フラメンコギターやスペインの伝統音楽のコース、ポップスやジャズのコースなどもあるので何百人かはいるかと思います。
-日本人以外の留学生は多いんですか?
西本 スペイン語を話せることもあって南米の人が多いですね。アジア人は少なくて、中国人や韓国人も全然見かけないですね。
-街にも少ないんでしょうか?
西本 街にはけっこういますよ。中国人は特に多いと思います。
-学校の雰囲気はどんな感じですか?
西本 出来てまだ10年の、新しい学校なんですよ。コンサートホールも3つくらい有り、バルセロナの中では有名な建物の中にあって、雰囲気はとても良いですよ。事務の人はわりと適当で、スペイン的ですけど(笑)。日本人が少ないので、顔を覚えられていることもあり、みんな声をかけてくれます。アットホームと言えばアットホームですね。
-日本と違うな、と思うところはありますか?
西本 外国だから当たり前なんですけど、先生と話すときにいわゆる敬語がないのは最初ちょっと変な感じがしました。心もとないというか。逆に同じだなと思うのは、練習室が、常に争奪戦だということです。スペイン人って、もう少しのんびりしているかと思っていたんですが、みんなとても意欲的に練習していて、いつも練習室は取り合いですね。
-みなさん熱心なんですね。
西本 熱心ですよ。その点では日本人と近いです。スペイン人って、もっとのんびりやっているかと思っていましたけど。でも、土日は夕方くらいまであんまり人いませんけどね(笑)
-学習態度などで、日本人と違うところはありますか?
西本 どんな音楽を作りたいかって言う意見をみんな強く持っていて、もしそのときにあんまり弾けてなかったとしても、そういうことは遠慮しないで言いますね。特に室内楽のときなど、自分の意見をお互いにばんばん言い合っています。あとは、何でも楽しそうですよね。スペイン人って、適当なイメージもあるかと思うんですが、音楽やっている人は結構きちんとしていますよ。時間にたいしてもそこまでルーズな人がいなくて、合わせなんかをするときにはむしろ私より早く来ていたりしますし、レッスンも大体時間通りに始まります。
-現地の人とのコミュニケーションで、日本とは違うことはありますか?
西本 とにかくみんな人なつっこいし、よくしゃべりますね。マスタークラスに出ると、全然知らない人が、わざわざ寄ってきて「良かったよ」って言ってくれたり。知っている人ならありうることだけど、全然知らない人なところがすごいなって。
-語学に関して、意思疎通するのに苦労したことはありますか?
西本 例えば室内楽をやっているときに「2小節前からもう一度」とか、そんなことでも、最初は全然分からなくて苦労しましたね。でも、それはだんだん慣れてくるので、なんとかなります。
-スペイン以外の人と交流することは?
西本 学校では、フランス人とか、東欧出身の人なんかがいるので、スペイン語やら英語やらで話します。あとは南米出身の友達たちですね。南米の人たちって、特にあったかい感じがします。
-いろんな国の人とコミュニケーションする時の、コツはありますか?
西本 細かいことは気にしないことですね(笑)。時間とか、これ約束だったよなってことで、もしうまく行かなくてもあんまり気にしないようにするというか。スペインではよく予定がころころ変わるので、臨機応変に。頭を柔らかく持っておいて、何事にもあまりこだわらないようにすることです。
-学校の外でコンサートとかには出たりしましたか?
西本 これまでに一度、違う学校の演奏会に誘っていただいて弾きました。何度かお話をいただいたこともあったんですが、予定が合わなかったりして、まだあんまりそういう機会はないですね。
-留学されてから1日のスケジュールはどんな感じですか?
西本 ピアノ中心に1日の全てが動いている感じです。今は、グランドピアノのある家に住むことができたので、家でずっと弾いていることが多いです。でもこもりっきりになるのもいやなので、太陽を浴びにお散歩したり、色々な場所に出かけたりするようにもしています。土日は、学校の練習室もあまり混雑していないので、予定がなければだいたいお昼くらいからずっと学校で弾いています。
-週末、お友だちと遊んだりはしますか?
西本 はい。スペインでは夜も外で楽器の音を出すのが平気なので、この間も夜に公園でギター弾きの友達たちとセッションして遊んだりしていました。私はそういうときはピアニカを吹いて遊んでいます。スペインは、金曜日と土曜日の夜の遊び方がすごくて、全部にはついていけないくらいです。みんなかなりの大人でもわりと朝までわいわいやっていますから。びっくりしたのが、地下鉄も土曜日は朝まで一日動いているんですよ。どうもそれは「遊んだみんなが帰れるように」なんですね(笑)日本だと、土日の方が終電早いじゃないですか。それは全く逆ですね。
-すごいですね。西本さんは、今、ホームステイをされているんですか?
西本 いえ、ルームシェアです。スペインは一つのピソをルームシェアしていることが多いんですよね。
-どうやって探したんですか?
西本 最初に住んだおうちは日本からインターネットで探して。その後引っ越したのですが、そのときは学校の掲示板に貼ってあったものから見つけました。
-割とすぐ決まりましたか?
西本 はい。多分私はラッキーだったと思います。音楽をやっている人は、うるさいと言われて引っ越さざるを得ないことも多いので。うまくおうちに恵まれなくて、年に3〜4回引っ越すはめになったこともあったよ!と言っていた方もいました。
-家を借りる手続きは面倒くさくなかったですか?
西本 ルームシェアの場合、不動産屋さんを通さなくても契約できるんですよ。誰かが持っている部屋をシェアする形なので、その部屋のオーナーと直接交渉するだけ。なので、面倒くさくはないですね。もちろん不動産屋さんを通す方法もありますが。実際、学生で日本のようにアパートを自分名義で契約して一人で住んでいる人は少ないんじゃないかな。一人で住むような大きさの部屋っていうのが中々ないような感じがします。
-スペインは、物価は安いのでしょうか?
西本 自炊をすれば、日本で一人暮らしをするよりも、安く生活できるんじゃないかと思います。野菜や肉などの普通の食材は安いので、普通にしていても、日本で住むのの2/3くらいにはなると思います。
-食材以外は安くないんですか?
西本 特別安くはないと思います。でも、生活するのに必要な金額としては、東京に住んでいた人であれば、かなり安く感じるでしょうね。
-スペインに留学する場合、日本でしっかり準備すべきことは何でしょうか?
西本 やはり言葉でしょうね。スペイン語と、あと英語も。
-英語を使う機会は多いんですか?
西本 留学生同士だと、英語を使うことの方が多いですからね。あと、違う国から来た先生とお話しするときも。なので、英語ができて損なことはないと思います。言葉に関してはみなさん同じことを言うと思いますが、やっぱり大事ですよね。あと準備しておくことは・・・健康と気力!これも大事です。なんかこう、へにょってなってると、この国のテンションにはあっさり負けそうになります(笑)
-スペインに留学して一番良かったことは何でしょう?
西本 実際の景色を見たりして、その雰囲気を知れたことですね。私はスペインものが好きでここに来たこともあるので、それは本当によかったです。「スペインなもの」に囲まれていますからね。そして、その中で自然と「ああ、だからこういう音楽になるんだなぁ」ってスッと理解できた瞬間もありました。こういうのはやっぱり来てみないと分からなかったことですね。ヨーロッパの中でも、ちょっとスペインは特殊な文化を持っていると思いますし。
-留学して自分が変わったことや、成長したと思うことはありますか?西本さんは、もともと行動力がありそうですが(笑)。
西本 一人の時間が増えましたね。こう言うと暗い感じですけど(笑)、自分と向き合う時間が増えたと言うか。あとは、日本語ほど達者にしゃべられないわけだから、下手な言い訳をしたり弱音を吐いたりができないという(笑)。なので、どんな状況になっても大丈夫なようにと準備をしたり、どんな状況にも食らいついていく強さみたいなのは自然と身に付いてきた気がします。それから、日本の良さに逆に気づきました。外国に住んでいると、「わたしは日本人だ」って言うのを、何度も口にするじゃないですか。それを言っていると、自分は日本人であるということを意識するようになるんですよ。学校にも日本人が少ないので、「私、ここにいると・・日本代表!?」みたいな気持ちになりますから(笑)、日本人として恥ずかしくない演奏をしよう!!とか思ったり。
-なるほど。さて、西本さんの今後の進路を教えてください。
西本 スペインでの留学終了後は、日本に帰って、日本を拠点に活動しようと思っているんですが、拠点は日本にあってもずっとワールドワイドな視野を持っていたいなと思っています。ピアニストとしての活動の他にも、音楽教育の実践、研究活動もやっていきたいですね。それから、ソロ以外にもpiaNAというピアノデュオを組んでいるので、そっちも帰国後は本格始動したいなと思っています。色々、やりたいことは山ほどです!
-これから留学しようとしている人に、アドバイスをお願いします。
西本 特にスペインに関しては、ピアノ留学をすることに関して情報が非常に少ないのですが、それにくじけず頑張ってください。でも、思いがけないところに、出会いがあったりもするので、留学したいと思って動き続けていれば、必ず実現できます!私が苦労した分、これからスペインに留学を考えている人には、わたしに協力できることがあれば・・・と思っています。
-今日は貴重なお話を聞かせていただいて、ありがとうございました!
音楽留学アンドビジョン【特報!イギリス留学東京オーディション vol.409. 2016-03-15 04:00:00】
倉田莉奈さん/ピアノ/ピレネー夏期国際音楽アカデミー/フランス・ピレネー
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
倉田莉奈さんプロフィール
埼玉県出身。桐朋女子高等学校音楽科卒業、桐朋学園大学4年次在学中。高校2年次と大学2・3年次、桐朋学園主催Students’concertに選出され、出演。2008年、第17回日本クラシック音楽コンクール高校生の部全国大会入選。2010年、第10回ショパン国際ピアノコンクールin Asia コンチェルト部門アジア大会奨励賞入賞。2010年「高橋多佳子とヤングピアニスト」にて高橋多佳子氏と連弾で共演。2010年ニース夏期音楽アカデミーに参加、修了演奏会に出演。今までに、関根聡子、川島伸達の各氏に師事。
-まず簡単なご経歴を教えて下さい
倉田 ピアノを始めたのは4歳からです。5年生の時に桐朋の音楽教室に入りまして、高校・大学と桐朋で学んでいます。
-小さい頃から本格的に勉強されていたんですね。
倉田 本格的に音楽の道を目指そうと決めたのは、中学生の時に進路を決めるときですね。
-今まで海外の講習会に参加されたことはあったんですか?
倉田 去年ニースに参加しました。
-いかがでしたか?
倉田 日本人だらけでした。ですので、今回とは全然雰囲気が違っていましたね。土地柄も違いますし。
-海外にはよく行かれるんですか?
倉田 そんなに経験は無いですよ、旅行に行ったくらいです。長期滞在したのは去年のニースが初めて。でも、フランス語ができなくても大丈夫な環境だったので、フランスに行ったと感じたのは今回の方が強いですね。
-今回ピレネー夏期音楽アカデミーに参加されたきっかけは?
倉田 ピエールレアク先生に見ていただきたいというのが大前提でした。3月に東京で公開レッスンがある予定だったんですよね。そこからゆっくり考えようと思っていたんですけど、キャンセルになってしまったので。今年4年生でラストチャンスということもあり、先輩に話を聴いたり先生の門下の子と連絡をとって情報を集めました。レアク先生が、どこの講習会に行くのかとか、どんな先生なのかとか。話を聞いていたら自分のつきたい先生の像と一致していたので、思い切ってピエール先生に会うためだけに行きました。他の先生に見ていただくことも出来ましたが、2週間びっしりレアク先生に習いたいと考えていました。
-先生はどんな方でしたか?
倉田 思っていた通りだったんですけど、本当に優しいお人柄でした。アジア人が私一人だけでしたし、フランス語も不安だったんですけど、全部ケアして下さって。英語も話してくれますし、音楽的にもバラエティに富んでいて非常に勉強になりました。いろんなジャンルの曲を持って行ったのですが、全部丁寧に見てくださいましたよ。毎回、一時間あっという間に感じる楽しいレッスンでした。日本の先生があまり言わないような細かい所も指摘して下さって。たとえば、「これは、弦楽四重奏の曲だからこういう風に弾こう」とか、そういうアプローチの仕方が新しいなと思いました。そういうことってヨーロッパに生まれたヨーロッパ人と、日本で西洋を学んでいるのとは全然違いますからね。自分もそういう場所に住んで吸収したいなという思いを強くしました。
-レアク先生は、厳しいときもあるそうですが・・・。
倉田 そんなことはないです。出来るまでやるという感じはありますけどね。いろんな方のレッスンを見ましたが、妥協無く教えるという感じで、誰もが納得するような内容でした。出来ていなければ出来ていないということを言って下さるので、熱心に見てくれるということです。本当に優しい方ですよ。
-他の参加者の方は何人くらいいたんですか?
倉田 レアク先生のクラスは、今回は少なくて全部で5人です。パスカル先生は10人くらい。ピアノだけでも30人くらいはいました。ピアノよりもオーケストラの方がすごく多くて、全体としてもかなりの人数だったと思います。
-レアク先生が他の先生より人数が少なくて得だったことはありますか?
倉田 毎日のようにレッスンがあったことは良かったですね。「明日はこれを持ってきて」とか言われてとぎょっとしたこともありましたけど(笑)。2週間で10回くらいレッスンをしました。曲が足りなくなりまして、同じ曲を二回持って行ったりしました。
-10回くらいありますよというスケジュールが出ていたんですか?
倉田 基本は毎日レッスンがあるという感じ。お休みの時は連絡が来る形でした。
-先生のどんなところが印象に残っていますか?
倉田 現役でコンサートをやられている先生に習うのが初めてだったので、やはりステージパフォーマンスの部分です。ステージ上でどういうように振る舞うとお客さんと一体になれるかとか、実際に本番で弾くときの間の取り方や体の動かし方を教えられました。他では学べないポイントですよね。
-今後に活かせそうですか?
倉田 じっくり練習することと、仕上げるときに舞台でどう映えるかということの両面から高めていける感じでした。バランスも良かったです。
-レッスンは何語で行われたんですか?
倉田 英語です。
-練習はどこでしていたんですか?
倉田 小さな小学校で、アップライトのピアノが各部屋にあるような所でした。参加者がたくさんいたので町中のピアノがある場所を押さえていたんでしょうね。小学校なので防音設備もなかったです。
-小学校ですか。ちゃんとしたピアノもあったんですか?
倉田 部屋に寄りけりなのですけど・・・。重い、軽い、音程がすごく低いとかありましたね。いつ調律したのかな?みたいな感じです。グランドピアノはなかったですし。
-レッスンはグランドピアノですよね?
倉田 はい、その小学校の体育館にありました。二部屋グランドピアノがある部屋があって、一部屋をレアク先生が使い、もう一部屋をパスカル先生が使うという形でした。
-レッスン場所と練習場所は同じだったんですね。
倉田 そうです。オーケストラが演奏会をするホールがすぐ近くにあって、集合するときはそこになるんですけど。
-小さい街ですよね?
倉田 空港から絶対一人では行けないくらいの所でした(笑)。スーパーとかもちゃんとあって街は街ですよ、観光地ですし。軽井沢の小さい版みたいな感じですかね、山が多いし。
-レッスン以外の自由時間は何をしていたんですか?
倉田 私たちの場合は毎日のようにレッスンだったので、相当練習時間に取られました。もちろん、街中はぐるっと歩くくらいの時間はあったので、スーパーに行ったりWi-Fiの電波を探したりしました。カフェに無線LANのスポットがあったのでそこに行っていました。携帯は、現地で借りた方が良いですね。日本の携帯を持って行ったんですが、いろいろ不具合もあって連絡を取るのが難しかったです。
-宿泊先はどうでしたか?
倉田 すごかったですね(笑)。まず寒すぎて、それがいちばん困りました。夏なのに12度~13度とかだったんですよ。寒いとは思っていたんですけど、日本が暑すぎたのでどのくらい寒いか想像できなくて。夜眠れなくて大変でした。毛布を渡されたんですけど、布キレみたいな感じだったので、カーディガンを着たまま寝ました。途中で耐えられなくて言いに行ったら、もう一枚布キレをくれただけでした(笑)。シャワーも窓開けっ放しで、外気温と同じようなところでしたから。
-お湯は出るんですよね?
倉田 出るんですけど、日によって温かくなかったりすることもあって、修行みたいでした。気温に関しては注意した方が良いです。あと、洗濯が出来なかったのは残念でした。
-むこうの環境で困ったことはありますか?
倉田 食事でしょうか。ありがちだとは思うんですが、お肉がドーンと出て野菜がほとんどない。冷凍食品でしょうね。なので、朝はスーパーで買った野菜を食べたりしていました。スーパーがあったので何とかなりましたけど。
-外食は?
倉田 一、二回ですね。カフェはたくさんあったんです。クレープ屋さんとか可愛いお店もありましたね。あと、一軒すごいうるさいクラブがありまして、夜はみんなそこに行っていたようです。
-今回、レアク先生のクラスに日本人は倉田さん一人だったんですね。
倉田 はい。パスカル先生のクラスに一人いましたけど。パリに住んでいる子でしたので、いろいろと助けていただきました。
-他の参加者は海外の方だったんですね。
倉田 ほとんどフランス人でした。国内だからこそ来ているって感じですよ。「え!日本から来たの?」って驚かれました。
-そういう環境にいて、海外の人とコミュニケーションするコツみたいなものは見つけましたか?
倉田 こっちから話しかけるようにすることが必要かなと思います。向こうからしてみれば、何語を話すのかもどのくらいフランス語を話せるのかも分からないだろうし。話せなくても「このくらい話せないんです」っていうのを明らかにすれば、ゆっくり話してもらえるし。文法は適当でも、伝わればいいくらいで気楽に考えた方がいいかもしれないですね。
-フランス語で会話していたんですか?
倉田 英語と両方ですね。両方とも中学生レベルですけど。フランス人の子にはフランス語を教えてもらいました。でも、さすがにフランス人同士で話しているところには入れませんでしたけど。
-参加者の年代は?
倉田 同じくらいか下かでしたね。十代が多かったです。みんな優しくて、楽しく過ごしました。
-今回の講習会に参加して良かったなと思うことは何でしょう?
倉田 やはり最後のコンサートが印象的でした。スチューデントコンサートは、ほとんど全員が出るんです。向こうの方たちの関心ってすごいし、たくさんお客さんが来ているのも刺激的でしたね。先入観を持たずに聴いて下さるし、その時感じた印象で正直に感想を言って下さるんですよ。いろんなことを褒めていただいたので嬉しかったです。フランス音楽を弾いたので、それも少し自信になりましたし。
-それは素敵ですね。
倉田 あと、先生が「もっと外に出てきた方がいいよ」っておっしゃってくれたんです。「こっちに住みたいなら、どんどん国際コンクールに挑戦した方が良いよ」と。来年、先生が審査員をするコンクールもあるから頑張ってみたらと誘われました。買って下さったっていうのが嬉しかったので、挑戦したいなと思いました。
-行かれてみて音楽的に変わったことや、人間的に成長した部分はありますか
倉田 日本人らしく、あまりにも慎ましくしていると、やりたい音楽が出来ないなと思いました。最初はコミュニケーションもあまり取れないし、ピアノもどういう風に弾けばいいか悩んで、自分一人で考えたりする時間も多かったんです。でも、人にどう思われるかを考えずに話した方がいいし、ピアノも評価を気にせず、まず自分が表現したいことを打ち出すことが大切だと感じました。そうじゃないと向こうの個性豊かな人たちには敵わない。そして、自分にはやりたいことがあるんだっていうことも気づきました。
-具体的に言うと?
倉田 ガンガン派手な曲を弾くよりは、変化をつけながらいろんな音を出して、最後までギャップで見せて行くみたいなのをやりたいなと。いろんなタイプの人がいて、お互いに練習を聴き合ったりして話をしたんですが、同じ曲にしても、トラディショナルな考え方の人もいれば、今のコンサートで今のお客さんを楽しませるなら前衛的に言っても良いんじゃないかっていう人もいる。日本だと正確性のほうが重視されますが、ちょっと無難ですよね。もちろん正確に弾くことの美しさはあると思うんですが、自分としては変化に富んだ音楽をやりたいし、もっとピアノで出来ることを考えようと思いました。
-大きな収穫だったんですね。
倉田 今も日本のコンクールに向けて準備しているんですけど、私はそんなに音も出る方じゃないし、パワーで持って行くのもそんなに好きじゃないって気づいたので、繊細なところを丁寧にやろうと。振れ幅を大きくして飽きさせないような表現をしたいと思います。
-日本と大きく違う点は?
倉田 やっぱり言いたいことを言っている人が多いですよね。練習室ひとつにしても「私はこのくらいの時間がないとダメだから、あなたは何時に来て」みたいな自分勝手なことを言う人もいましたし。それにめげず、言いたいことは言わないとやっていけないです。日本人って協調性があるし、そこまで空気を乱す人はいないじゃないですか。でも、ちゃんと自己主張しないといけないって意識するようになりました。
-では、今後留学を考えている人にアドバイスをお願いします。
倉田 迷ったら行ってみたらいいと思います。勇気を出さないと何も出来ないと思うので。行ってしまえば楽しいですよ、とりあえず行ってみてって伝えたいです。コミュニケーションが取れなければ取れないでも勉強になると思うし、細かいことを気にせず一歩を踏み出すって言うのが大事だと思います。ポジティブな気持ちで考えたらいいのではないでしょうか。
-留学する前にしっかりやっておくべきことはなんでしょうか?
倉田 語学ですかね。最低でも英語が理解できないと厳しいと思います。日本人がたくさんいる講習会なら良いと思いますが、マイナーなところに行くなら、いくら勇気があっても英語が話せないと厳しいです。あとは曲をあらゆるジャンルからたくさん準備することですね。何を見てもらいたいかっていうのを事前に考えておいた方が良いと思います。
-最後の質問ですが、倉田さんの今後の進路を教えて下さい。
倉田 今回レアク先生とも将来の話をしまして、パリに来て勉強しなさいと言っていただいたので、来年、パリ地方音楽院の大学院ディプロマが取れるコースを受験しようと思っています。
-それに向けて準備は進めているんですか?
倉田 まず大学を卒業して、語学をしっかり勉強して、秋の受験に備える予定です。
-ぜひ頑張って下さい。今日は本当にありがとうございました!